本サイトで紹介する本に関する理解度チェック問題になります。
問題を解きながら、本の概要を理解できるように、
問題以上に解説に力を入れておりますので、是非活用ください。
「ほんとうの幸(さいわい)とは何か?」これこそが本書で一貫して問われているテーマだと感じました。本当の幸せは、『銀河鉄道の夜』全体を貫く重要なテーマです。実際本書では5つの場面で、本当の幸せについて計11回も言及しています。そのためジョヴァンニが本当の幸せとは何かを意識する、心の成長物語としても読むこともできるのです。
物語の後半で、自分の命を犠牲にしてまで他の人の幸せを願うサソリが出てきます。そのサソリから話を聞いた後で、ジョヴァンニは次のように言います。
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「カムパネルラ、また僕たち二人きりになったねえ、
どこまでもどこまでも一緒に行こう。
僕はもうあのさそりのように本当にみんなの幸(さいわい)のためならば
僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまわない。」
(『銀河鉄道の夜』より引用)
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つまり彼は、他の人の幸せのために生きるべきであるということを悟ったのです。本書の中で宮沢賢治が描こうとしている本当の幸せとは、人のために生きることだったのです。しかしそんななかで、カムパネルラは死んでしまいます。ここでは人のために行動した、彼の迷いなき自己犠牲(=死)が描かれているのです。
登場人物の名前について、「ジョバンニ」はイタリアの洗礼名のひとつに由来し、「カムパネルラ」は神学者トマソ・カンパネッラからとったという推定されています。『銀河鉄道の夜』の成立には、賢治が盛岡高等農林学校在学時から親密な関係を築いた一年後輩にあたる保阪嘉内の影響が大きく関係していると考える研究者もおり、作品中の様々なモチーフに、20代の頃に賢治と嘉内とが二人で登山し夜を通して共に語り合った体験が色濃く反映され、登場人物の「ジョバンニ」を賢治自身とするなら、「カムパネルラ」は保阪嘉内をあらわしていると考える研究者もます。
このような背景を考えると、本書は児童書ではあるものの、宮沢賢治という人間そのものであるとも考えられます。宮沢賢治がほんとうの 幸(さいわい) を追い求めて行きついたのが利他的な考え方だったと思います。寂しい場面と心温まる場面が交互に繰り返される描写とストーリーに引き込まれながら自分の生き方にも向き合うことができるお薦めの一冊です。
●あらすじ |
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前半 |
主人公であるジョバンニは、クラスでいじめの対象となっています。彼のお父さんは漁に行ったきり、長年家に帰ってきません。ラッコを密漁して警察に捕まったという噂まであります。そのせいで、彼は学校でいじめられているのです。さらに、お母さんは病気で寝たきり。そのため彼は小学生であるにも関わらず、家計を支えるために活版印刷所に働きに出ています。そんななかでも、親友で幼馴染のカムパネルラだけは彼を気にかけてくれました。 星祭の夜。仕事を終えたジョヴァンニが牛乳を取りに広場に行ってみると、カムパネルラが来ていました。声をかけようとするジョバンニに対して、ザネリとクラスメイトたちは彼をからかい、それに耐えられなくなった彼は丘へ向かいます。するとなぜか目の前に鉄道が現れ、気がつくとその列車に乗車しているのでした。その中にはびしょ濡れになったカムパネルラがいました。彼と久しぶりに一緒にいられることを嬉しく思い、2人は話を始めます。そのまま列車はどんどんと銀河へと進んでいくのです。 |
後半 |
列車に乗車したあと、ジョバンニはカムパネルラと一緒に旅をします。白鳥座の停車場に着き、そこでの20分の停車時間の間、2人は列車を降りてプリオシン海岸に行きました。ここで彼らは、牛の先祖の骨を発掘している大学士と会って話すことになりますが、時間が来たので再び列車へ戻っていきます。戻ってしばらく乗車していると、商売人である鳥採りが乗車してきました。彼は鳥を捕まえて標本にし、食べると言います。2人はそれを食べさせてもらいますが、どう考えてもお菓子としか認識できません。そして彼は列車から突然姿を消して河原で鷲を捕まえると、いつの間にか列車に戻ってきているのでした。そのまま列車に乗っている2人の元に、ある観測所の近くで車掌が切符を切りにやってきます。そこで、ジョヴァンニが持っている切符は、どこにでも行ける通行券であることがわかります。その後列車には6歳くらいの男の子、12歳くらいのお姉ちゃん、そして彼らの家庭教師をしている青年が乗車してくることに。途中でサソリの火が見え、女の子がサソリの話を始めます。そんな話をしているうちに、列車はサウザンクロス駅に到着。女の子、男の子、青年はそこで降りてしまいました。そしてそこで話していると、カムパネルラの姿もいつの間にか見えなくなってしまったのです。ジョヴァンニが目を開くと、そこは元いた丘の上でした。彼はお母さんのことを思い出し、急いで家に向かいます。 その途中で彼は、川の橋に人だかりが出来ていることに気付きます。そこにいたクラスメイトであるマルソに事情をきくと、川に落ちたザネリを助けたカムパネルラが見つからなくなってしまったのだと言うのです。カンパネルラは自分を犠牲にして亡くなったのです。 |
・双子の星
・よだかの星
・カイロ団長
・黄いろのトマト
・ひのきとひなげし
・シグナルとシグナレス
・マリヴロンと少女
・オツベルと象
・猫の事務所
・北守将軍と三人兄弟の医者
・銀河鉄道の夜
・セロ弾きのゴーシュ
・饑餓陣営
・ビジテリアン大祭
著者: 宮沢賢治
(1896-1933)明治29年、岩手県花巻生れ。盛岡高等農林学校卒。富商の長男。日蓮宗徒。1921(大正10)年から5年間、花巻農学校教諭。中学時代からの山野跋渉が、彼の文学の礎となった。教え子との交流を通じ岩手県農民の現実を知り、羅須地人協会を設立、農業技術指導、レコードコンサートの開催など、農民の生活向上をめざし粉骨砕身するが、理想かなわぬまま過労で肺結核が悪化、最後の5年は病床で、作品の創作や改稿を行った。
『銀河鉄道の夜』は、宮沢賢治の童話作品となります。孤独な少年ジョバンニが、友人カムパネルラと銀河鉄道の旅をする物語で、宮沢賢治童話の代表作のひとつとされています。
作者の死により未定稿のまま遺されたこと、多くの造語が使われていることなどもあって、研究家の間でも様々な解釈が行われているこの作品から生まれた派生作品は数多く、これまで数度にわたり映画化やアニメーション化、演劇化された他、プラネタリウム番組が作られています。
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