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ストーリーとしての競争戦略 (東洋経済新報社) 楠木建

Book Summary
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理解度チェック

本サイトで紹介する本に関する理解度チェック問題になります。


問題を解きながら、本の概要を理解できるように、
問題以上に解説に力を入れておりますので、是非活用ください。

レビュー

本書のメッセージを一言でいえば、「優れた戦略とは思わず人に話したくなるような面白いストーリーだ」ということです。戦略を構成する要素がかみあって、全体としてゴールに向かって動いていくイメージが動画のように見えてくる。全体の動きと流れが生き生きと浮かび上がってくる。これが「ストーリーがある」ということです。本書で主張されているのは競争戦略を「ストーリーづくり」 として理解する視点と、その背後にある論理です。ストーリーという視点に立てば、競争戦略についてこれまでと違った景色が見えてきます。実際私も本書を読んで自社の競争戦略に置き換えて考えた時に違った視点を持つことができ、ワクワクしたのも事実です。

  • 要点1 ストーリーとしての競争戦略とは、戦略の本質である「違い」と「つながり」の2つの要素のうち、後者に軸足を置くものだ。他社との差別要素が組み合わさり、相互作用することこそが長期利益の実現につながる。
  • 要点2 「違いをつくる」ためには、他社と違うところに自社を位置付けること(SP:Strategic Positioning)と、他社が簡単に真似できないその組織固有のやり方を実践すること(OC:Organizational Capability)、の2通りが存在する。この2つの意味合いを理解し、両者のつながりを意識して戦略ストーリーを組み立てることが重要である。
  • 要点3 優れたストーリーは、単なるアクションリストやテンプレートのような静止画ではなく、戦略ストーリーにおける5つの柱(5C:競争優位、コンセプト、構成要素、クリティカル・コア、一貫性)が優れていて、動画のように全体の動きと流れが生き生きと浮かび上がってくるようなものである。

本書は7章構成となっている。第1・2章ではストーリーとしての競争戦略とは何か、なぜストーリーという戦略思考が重要なのかを示し、第3~5章で優れた戦略ストーリーの条件、第6章にてその具体例を紹介し、第7章では総括として戦略ストーリーの原則についてまとめている。本書を読めば優れた戦略ストーリーの構築方法について体系的に学ぶことが出来きます。

●ビジネス雑誌の紹介文
「こんなおもしろい経営戦略論はそうそうあるものではない。言葉は自前で、かつ自信に満ちている。事例が沢山挙げられていて、随所に挿入されたユーモアがまた絶妙。もし経営学直木賞があったら、ぜひ推薦したい一冊である」——『週刊文春』2010年12月2日号より

「ウィットに富んだ文章。前半に張った伏線が、後半に見事につながる構成。戦略ストーリーが主題と見せかけて、クライマックスで隠し玉をポンと出す意外性。そして内容の裏にある圧倒的な取材と勉強量。抜群のリーダビリティに脱帽の名著だ。筆者は学会の東野圭吾と呼んでもいいかもしれない。——『プレジデント』2010年7月5日号より

●ポイント
「戦略」とは

 戦略(競争戦略)とは、(競合他社との)違いをつくって、(個別の施策を)つなげることです。つまり、

①他社との違いをつくる
→ポジショニング(SP:Strategic Positioning)
→組織能力(OC:Organizational Capability)

SPとは、他社と違うところに自社を位置づけることです。選択と集中という言葉どおり、何をやり、何をやらないかを決めるのがポイントです。OCとは、競争に勝つための独自の強みです。ルーティンや物事のやり方など、他社と違った強み(組織特殊性)を持つことで、競争優位を実現します。


②構成要素の間に因果関係がある
因果関係とは、打ち手のつながり、流れ、論理、シンセシス(統合)などを指します。個別の事象にフォーカスする「アクションリスト」「法則」「テンプレート」「ベストプラクティス」「経営理論(セオリー)などとは異なります。

ものが、戦略と定義されています。企業は「持続的な利益」の獲得を最終的な目標としています。競争構造がある業界では、他社よりも優れた収益を持続的に達成するために、戦略が必要となるのです。

戦略ストーリーの5C

「ストーリーとしての競争戦略」には、5つのポイントが挙げられています。それぞれの頭文字をとって戦略ストーリーの5Cと命名されています。

競争優位(Competitive Advantage)
→競争優位とは、他社との競争に勝ち得る状態のことです。競争戦略は、この競争優位を実現するためにあります。とくに企業の場合、競争優位が「持続的な利益」につながる点が重要です。

・コンセプト(Concept)
→コンセプトとは、本質的な顧客価値を定義することです。コンセプトを設定し、「誰を喜ばせるか・誰に嫌われるか」を明確にすることで、具体的な打ち手へとつなげていきます。

・構成要素(Components)
→構成要素とは、競合他社との違いを生み出す要素のことです。SPやOCはもちろん、競争優位を実現するためのあらゆる施策が、競争戦略の構成要素となります。

・クリティカル・コア(Critical Core)
→クリティカル・コアとは、独自性と一貫性の源泉となる中核的な構成要素のことです。クリティカル・コアが、競争戦略をより強固なものにします。本書では、サッカーで言うところの「キラーパス」と表現されています。

・一貫性(Consistency)
→一貫性とは、構成要素をつなぐ因果論理のことです。構成要素のつながりや流れ、因果論理を重要視するストーリーとしての競争戦略において、一貫性は欠かせません。

●戦略ストーリー5Cの要諦
コンセプト(Concept) の要諦
これら5つのポイントのうち、とくに重要なのがコンセプトです。楠木氏は本書において、「すべての始まりはコンセプト」であると述べています。「本当のところ、誰に何を売っているのか」を定義することで、「誰を喜ばせるか=誰に嫌われるか」が明らかになります。肯定的な形容詞はなるべく使わないのがポイントです。 ごく日常の生活や仕事の中で、嬉しかったこと、面白いと思ったこと、不便を感じたこと、頭にきたこと、疑問に思ったこと、そうしたちょっとした引っかかりをやり過ごさず、その背後にある「なぜ」を考えることを習慣にする。回り道のように見えて、これがコンセプトを構想するための最上にして最短の道だというのが私の意見です。どんなに画期的なコンセプトも、発想の初めの一歩はそうした日々の習慣の積み重ねの中から生まれるものだと私は思っています。 またコンセプトは、人間の本性を捉えるものでなければなりません。生身の人間の気持ちや動きを捉えることで、より良いコンセプトが生まれます。

コンセプトの例①:ブックオフ
リユースのインフラ=「捨てない人」のライフサイクルを豊かにする
<コンセプトに基づく個別の打ち手>
・少なくとも二〇台の駐車スペース
・自宅への中古本引き取り
・送料無料で本を送れる

コンセプトの例②:アスクル
小規模事業者のオフィス需要に対応する
<コンセプトに基づく個別の打ち手>
・小規模事業者の「明日来る」を実現
・消耗品を一つから発注できる
・品揃えとスピード

コンセプトの例③:スターバックス
「第三の場所」(third place)=職場、家庭に次ぐ「人々が安心して集える場所」
<コンセプトに基づく個別の打ち手>
・居心地のいい空間
・あえて客を待たせる(忙しい人を排除する)
・全席禁煙


●クリティカル・コアの要諦
コンセプトとともに重要なのがクリティカル・コアです。クリティカル・コアは、戦略ストーリーの一貫性の基盤となり、持続的な競争優位の源泉となる中核的な要素です。クリティカル・コアには、
①他のさまざまな構成要素と同時に多くのつながりを持っている
②一見して不合理に見える

という2つの特徴があります。他の構成要素とつながることで因果論理を構成し、加えて、業界内の常識に反する(一見して不合理に見える)からこそ、他社は容易に模倣できません(動機の不在、意識的な模倣の忌避)。その結果、「賢者の盲点」をつくことができます。さらに、模倣すること自体が差異を増幅させるという効果もあります(自滅の論理)。

クリティカル・コアの例:スターバックス
①他のさまざまな構成要素と同時に多くのつながりを持っている
 ・コンセプト:「第三の場所」(third place)
 ・構成要素:店舗の雰囲気、出店と立地、オペレーション形態、スタッフ、メニュー
 ・クリティカル・コア:直営方式による店舗運営(オペレーション形態)
 ・競争優位:WTP(Willingness To Pay:顧客が支払いたいと思う水準)の増大→長期利益
②店舗運営をあえて直営方式にする
多店舗経営では、フランチャイズのほうが「低コスト」「低リスク」「深い知識」「高いモチベーション」などのメリットがあるものの、あえて直営方式にする。そうすることで、スターバックスは「第三の場所」というコンセプトを忠実に再現し、維持しています。それが、WTPの増大を実現し、競争優位につながります。

クリティカル・コアのその他の例
・マブチモーター:「モーターの標準化」→さまざまなニーズにあえて対応しない
・デル:「自社工場での組み立て」→労働コストが安いアジアなどにあえて委託しない
・サウスウエスト航空:「ハブ空港を使わない」→効率のいいハブ・アンド・スポーク方式をあえて使わない
・アマゾン:巨大な物流センターを持つ」Eコマース企業の特権である「身軽さ」にあえて反する
・アスクル:「ローカル文具店の活用」→中抜きによるスピードやコスト削減をあえて行わない
本書の目次

第1章…ストーリーの戦略論とは何であり、何ではないかをお話しし、ストーリーとしての競争戦略という視点を明らかにします。

第2章…本題に入る準備として、競争戦略というものの考え方が立脚している基本論理について、その本質部分をおさらいします。

第3章…「筋の良い」ストーリーとは何か、優れた戦略ストーリーの条件についてお話しします。

第4章…ストーリーとしての競争戦略のカギとなる二つの論点、具体的には戦略ストーリーの基点となる「コンセプト」と、ストーリーのキラーパスともいえる「クリティカル・コア」について話を深めたいと思います。

第5章…ストーリーという戦略思考の最大の強みである持続的な競争優位の論理を明らかにします。

第6章…ガリバーインターナショナルを例にとって、優れた戦略ストーリーの読解をしたいと思います。同社が構想し、現実に動かし、成功をもたらしたストーリーをじっくり読み取り、優れたストーリーの条件についての理解を深めることがこの章の目的です。

第7章…それまでの議論のまとめとして、優れた戦略ストーリーを描くための「骨法」のようなものをお話ししたいと思います。

著者・出版

著者: 楠木 建(くすのき けん、1964年9月12日 – )


東京都目黒区生まれ。南アフリカ共和国ヨハネスブルグで子供時代を過ごす。1987年一橋大学商学部卒業。1989年一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。一橋大学商学部専任講師、同助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学ビジネススクール(ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授を経て、2010年より現職。企業が持続的な競争優位を構築する論理について研究している。

新潮新書)、『好きなようにしてください』(ダイヤモンド社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(文藝春秋)、『戦略読書日記』(ちくま文庫)がある。

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