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永い言い訳 (文藝春秋)西川美和

Book Summary
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レビュー

映画を見た感想としては、少なからずや幸夫が自分と重なるところがあり、虚しさと寂しさを感じました。自分への劣等感を隠しながら虚勢を張る自分を見抜いている妻、そんな妻へ接する態度などまるで自分を見ているようでした。自分のプライドを守るために、本当に大切にしなければならない人を手放してしまっていないでしょうか、今当たり前に存在する人・ものを当たり前に思ってはいないでしょうか?

今まで当たり前のように自分の傍にいてくれた人がいなくなる、それがどういう意味なのか、はたまたそれが自分の身に降りかかった時、自分がどう感じるのかなんて考えたこともありませんし、今の私には分かりませんが、常に自分の声に耳を傾け、本当の自分と向き合うことができれば、実際の生活の中で本当に大切なものが見えて、傍にいてくれる人への感謝の言葉に繋がるのかもしれないなと感じさせてくれた作品でした。

幸夫は、本木雅弘さんが演じている。この主人公、今までの作品の中でもっとも西川さん自身に近いキャラクターなのだそうです。だからこそ、人間臭く、引き込まれるのかもれませんね。「永い言い訳」というタイトルは、長いという漢字ではなく、永いって漢字なんですよね。それは20年という夫婦の時間を蔑ろにしてきた幸夫の弁解なんだと思います。妻が死んで泣けず挙句の果てには不倫までしていた幸夫はずっと心のどこかで妻が死んで泣けない自分に自分で言い訳を重ねていたんだと思います。初めて陽一家族との関係が壊れそうになった時、しがみついていたものが壊れそうになって始めて、言い訳が成り立たなくなってしまい、関係性を壊すという暴挙に出た幸夫です。映画の内容が永い言い訳で構成されているという意味と本のタイトルという意味があると思います。

本書のあらす
妻が死んでも泣けない男のラブストーリー。西川美和による小説、脚本・監督映画作品。出演は本木雅弘、深津絵里、竹原ピストル他。人気作家の衣笠幸夫は、長年連れ添った妻が友人とともに旅行に出かけたその日に、彼女がバス事故死したことを知らされる。ただ妻のいぬ間に不倫をしていた幸夫にとってさほど悲しい出来事ではなかった。同じ事故で亡くなった妻の友人の夫、陽一が電話を寄越してくる。トラック運転手である陽一はふたりの子供を抱え、妻を失った事実に打ちひしがれて同じ境遇の幸夫と思いを分かち合おうとした。予期せず家族を失った者たちは、どのように人生を取り戻すのか――。人を愛することの「素晴らしさと歯がゆさ」を描ききった物語。
著者・出版

西川 美和(にしかわ みわ)


1974年、広島県出身。早稲田大学第一文学部卒。
2002年に平凡な一家の転覆劇を描いた『蛇イチゴ』でオリジナル脚本・監督デビュー。第58回毎日映画コンクール・脚本賞ほか。
06年、対照的な性格の兄弟の関係性の反転を描いた長編第二作『ゆれる』を発表し、第59回カンヌ国際映画祭監督週間に出品。第58回読売文学賞戯曲・シナリオ賞ほか。09年、僻地の無医村に紛れ込んでいた偽医者の逃走劇『ディア・ドクター』。12年、一組の夫婦の犯罪劇と女たちの生を描いた『夢売るふたり』を発表。
15年、倦怠期の最中に妻を事故で亡くした小説家の心の葛藤と新しい交流を描いた小説『永い言い訳』を上梓後、16年、映画『永い言い訳』を発表。アジア、欧州でも公開される。
佐木隆三の小説『身分帳』を原案とした『すばらしき世界』(主演:役所広司)が、2021年2月公開予定。
小説作品に、『ゆれる』(第20回三島由紀夫賞候補)、『きのうの神様』(第141回直木賞候補)、『その日東京駅五時三十五分発』、『永い言い訳』(第28回山本周五郎賞候補・第153回直木賞候補・2016年本屋大賞第4位)がある。

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