4回泣けると話題の映画『コーヒーは冷めないうちに』は、夏が終わり秋の物思いに耽る季節にぴったりな作品です。
「時間をはかるにはカレンダーや時計がありますが、はかってみたところであまり意味はありません。というのは、だれでも知っているとおり、その時間にどんなことがあったかによって、わずか一時間でも永遠の長さに感じられることもあれば、ほんの一瞬と思えることもあるからです。なぜなら時間とは、生きるということ、そのものだからです。そして人のいのちは心を住みかとしているからです。」 (ミヒャエル・エンデ『モモ』より引用)
コーヒーが冷めないうちにを見ていると、『モモ』のこの一節を思い出しました。「人のいのちは心を住みかとしている」言葉は本作に強くリンクすると思いませんか。すでに起こっている出来事は変えられないけれども、「人の思い」は変わります。そして思いが変わることによって、これからの「時間」をどう生きるかを自分で改めて決めていくことが可能になります。それこそが今作の「すでに起こっている出来事を変えられない」というルールに拘束されたタイムトラベルの意義とも言えるわけです。つまり、フニクリフニクラでコーヒーを飲んで、尿を排出するだけの永久機関と化していた数の母親は、数が「今」を生きていないことの表象でもあったんですよね。彼女はずっと過去に囚われていて、今を生きることができていませんでした。しかし、タイムトラベルを通じて彼女は「今」そして「未来」という時間を取り戻したんですよ。モモが世界に時間を取り戻したのであれば、数は自分の世界に時間を取り戻しました。だからこそラストシーンで、母親の姿は喫茶店から消えてしまっていました。『コーヒーが冷めないうちに』はまさに時間と、そして生きることの大切さを改めて教えてくれる映画でしすね。
●本書のあらすじ |
お願いします、あの日に戻らせてください――。 過去に戻れる喫茶店で起こった、心温まる4つの奇跡。 とある街の、とある喫茶店の とある座席には不思議な都市伝説があった その席に座ると、望んだとおりの時間に戻れるという ただし、そこにはめんどくさい…… 非常にめんどくさいルールがあった 1.過去に戻っても、この喫茶店を訪れた事のない者には会う事はできない 2.過去に戻って、どんな努力をしても、現実は変わらない 3.過去に戻れる席には先客がいる その席に座れるのは、その先客が席を立った時だけ 4.過去に戻っても、席を立って移動する事はできない 5.過去に戻れるのは、コーヒーをカップに注いでから、 そのコーヒーが冷めてしまうまでの間だけ めんどくさいルールはこれだけではない それにもかかわらず、今日も都市伝説の噂を聞いた客がこの喫茶店を訪れる 喫茶店の名は、フニクリフニクラ あなたなら、これだけのルールを聞かされて それでも過去に戻りたいと思いますか? この物語は、そんな不思議な喫茶店で起こった、心温まる四つの奇跡 第1話「恋人」結婚を考えていた彼氏と別れた女の話 第2話「夫婦」記憶が消えていく男と看護師の話 第3話「姉妹」家出した姉とよく食べる妹の話 第4話「親子」この喫茶店で働く妊婦の話 あの日に戻れたら、あなたは誰に会いに行きますか? |
川口俊和 (かわぐち・としかず)
大阪府茨木市出身。1971年生まれ。1110プロヂュース脚本家兼演出家。代表作は「COUPLE」「夕焼けの唄」「family time」等。本作の元となった舞台、1110プロヂュース公演「コーヒーが冷めないうちに」で、第10回杉並演劇祭大賞を受賞。小説デビュー作の『コーヒーが冷めないうちに』は、2017年本屋大賞にノミネートされた。他の著書に『この嘘がばれないうちに』がある。
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