本サイトで紹介する本に関する理解度チェック問題になります。
問題を解きながら、本の概要を理解できるように、
問題以上に解説に力を入れておりますので、是非活用ください。
[3つのポイント]
・土地環境には9種類あり、兵士心理に影響をおよぼすことを理解しておくこと |
・戦争を行う上での大切なことは敵の心を把握すること |
・敵情を読み、それに応じた行動をとりながら、機会を見て一気に勝敗を決すること |
[サマリ]
地形篇に続き、戦場となる地形と兵の使い方について述べられています。九地篇では、兵の士気を維持する方法に重点を置いて解説されています。九種類の土地環境で兵士たちの心理にどのように作用するか、どういう影響を与えるかを踏まえた上での作戦行動を説いています。
具体的な地勢ではなく、軍の置かれる状況によって九種に分類し、採るべき方策を述べています。
- 散地:軍の逃げ散る土地では、士気が維持しにくく、軍が背走しやすい土地で、このような場所で戦ってはならない。
- 軽地:軍の浮き立つ土地は、敵地に入って浅い場所。本国に逃げ帰ろうとするのが困難でないので士気を維持しにくく、長くとどまっていてはならない。
- 争地:敵と奪い合う土地は、いわゆる「戦略上の要衝」で確保した方が有利になる土地。敵に先手を取られたなら攻撃を仕掛けてはならない。
- 交地:往来に便利な土地は、軍の移動には便利であるが、だからこそ分散させてはならない(敵も行軍しやすいため)。
- 衝地:地域交通の中心地は、行軍の要衝となる地で他国との往来に便利な場所。ここを確保したなら諸侯と外交を結び、戦局を有利に進めるべきである。
- 重地:補給上の重要地点は、敵地の奥で、生産性もしくは経済性に優れて、根拠地とするにふさわしい土地。食料を掠奪によって入手するのがよい。
- ヒ地:軍を進めにくい土地は、山林等の険しい地勢のために軍を進めにくい。このような土地では有利に応戦できないので、なるべく早く通り過ぎるのがよい。
- 囲地:囲まれた土地は、動きが制限され、敵が小勢でも有利に戦える土地。戦術上の不利を補うために謀略を用いるのがよい。
- 死地:死すべき土地は、戦わないと生き残ることのできない土地。激戦して切り抜けなくてはならない。
読み下し文 | 現代語訳 |
孫子曰く、兵を用いるの法は、散地あり、軽地あり、争地あり、交地あり、衢地あり、重地あり、圮地あり、囲地あり、死地あり。諸侯みずからその地に戦うを散地となす。人の地に入りて深からざるものを軽地となす。われ得れば利あり、かれ得るもまた利あるものを争地となす。われもって往くべく、かれもって来たるべきものを交地となす。諸侯の地三属し、先に至れば天下の衆を得べきものを衢地となす。人の地に入ること深くして、城邑を背にすること多きものを重地となす。山林、険阻、狙沢、およそ行き難きの道を行くものを圮地となす。由りて入るところのもの隘く、従りて帰るところのもの迂にして、かれ寡にしてもってわれの衆を撃つべきものを囲地となす。疾く戦えば存し、疾く戦わざれば亡ぶるものを死地となす。このゆえに散地にはすなわち戦うことなかれ。軽地にはすなわち止まることなかれ。争地にはすなわち攻むることなかれ。交地にはすなわち絶つことなかれ。衢地にはすなわち交わりを合す。重地にはすなわち掠む。圮地にはすなわち行く。囲地にはすなわち謀る。死地にはすなわち戦う。 | 孫子はいう。土地環境における戦争の原則は
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いわゆる古の善く兵を用うる者は、よく敵人をして前後相及ばず、衆寡相恃まず、貴賤相救わず、上下相収めず、卒離れて集まらず、兵合して斉わざらしむ。利に合して動き、利に合せずして止む。 | 昔の戦争の上手な人は、敵軍に前軍と後軍の連絡ができないようにさせ、大部隊と小部隊が助け合えないようにさせ身分の高いものと低いものが互いに救い合わず上下のモノが互いに助け合わないようにさせた。こうして味方の有利な状況になれば行動をおこし、有利にならなければ機会をまった。 |
あえて問う、敵衆く整いてまさに来たらんとす。これを待つこといかん。曰く、まずその愛するところを奪え、すなわち聴かん、と。兵の情は速やかなるを主とす。人の及ばざるに乗じ、虞らざるの道により、その戒めざるところを攻むるなり。
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敵が秩序だった大軍でこちらを攻めようとしているときの対処方法は、敵に先んじて敵の大切なものを奪取すれば、敵はこちらの思い通りになるであろう。戦争の実情は迅速が第一、敵の配備が終わらない隙をついて、敵が警戒していないところを攻撃する。 |
およそ客たるの道は、深く入ればすなわち専にして、主人克たず。饒野に掠めて三軍食足り、謹み養いて労するなく、気を併せ力を積み、兵を運らし計謀して測るべからざるをなす。これを往くところなきに投ずれば、死すもかつ北げず。死いずくんぞ得ざらん。士人力を尽くさん。兵士、はなはだ陥ればすなわち懼れず。往くところなければすなわち固く、深く入ればすなわち拘し、己むを得ざればすなわち闘う。このゆえに、その兵修めずして戒め、求めずして得、約せずして親しみ、令せずして信ず。祥を禁じ疑を去り、死に至るまで之くところなし。わが士、余財なきは貨を悪むにあらず。余命なきは寿を悪むにあらず。令、発するの曰、士卒の坐する者は涕襟を霑し、堰臥する者は涕頤に交わる。これを往くところなきに投ずれば諸・劌の勇なり。
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およそ敵国に進撃した場合、兵士はあまりにも危険な立場に落ち込んだ時にそれを恐れず、行き場がなくなった時に心も固まり、深く入り込んだ時に団結し、戦わないでおれなくなった時には戦う。そういう苦難に落ち込んだ軍隊は指揮官が整えなくとも戒慎し、求めなくとも力戦し、拘束せずとも親しみ、法令を定めなくても誠実である。わが兵士たちに余った財物を焼却するのは物資を嫌ってそうするのではなく、のこった生命を投げ出すのは長生きを嫌ってそうするものではない。やむにやまれず決戦するためである。 |
故に善く兵を用うる者は、譬えば率然の如し。率然とは、常山の蛇なり。其の首を撃てば則ち尾至り、其の尾を撃てば則ち首至り、其の中を撃てば則ち首尾倶に至る。あえて問う、兵は率然のごとくならしむべきか。曰く、可なり。それ呉人と越人と相悪むも、その舟を同じくして済り風に遇うに当たりては、その相救うや左右の手のごとし。このゆえに馬を方べ輪を埋むるも、いまだ恃むに足らず。勇を斉しくし一のごとくするは政の道なり。剛柔みな得るは地の理なり。ゆえに善く兵を用うる者は、手を携うること一人を使うがごとし。已むを得ざらしむればなり。
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そこで戦争の上手な人は、たとえば率然のようなものである。率然というのは常山にいる蛇の事である。その頭を撃つと尾が助けに苦し、その尾を撃つと頭が助けにくるし、その腹を攻撃すると尾と頭が一緒にかかってくる。
軍隊を勇者も怯者も等しく勇敢に整えるのは、その治め方によるところである。剛強者も軟弱者もひとしく十分の働きをするのは土地の形勢の通りによるところである。戦争の上手な人が軍隊をまるで手を綱いるかのように一体(すなわち率然)ならせるのは、兵士たちを戦うよりほかにどうしようもないようにするからである。 |
軍に将たるのことは、静もって幽、正もって治、よく士卒の耳目を愚にし、これをして知ることなからしむ。その事を易え、その謀を革め、人をして識ることなからしめ、その居を易え、その途を迂にし、人をして慮ることを得ざらしむ。帥いてこれと期すれば、高きに登りてその梯を去るがごとし。帥いてこれと深く諸侯の地に入りて、その機を発すれば、舟を焚き釜を破り、群羊を駆るがごとし。駆られて往き、駆られて来たるも、之くところを知ることなし。三軍の衆を聚め、これを険に投ず。これ軍に将たるの事と謂うなり。九地の変、屈伸の利、人情の理、察せざるべからず。
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将軍たるものの仕事は物静かで奥深く、正大でよく整っている。士卒の耳めをうまくくらまして軍の計画を知らせないようにし、そのしわざを様々かえて策謀を更新して人々に気づかれないようにし、その駐屯地を転々と変えその行路を迂回して人々に推し量れないようにする。 |
およそ客たるの道は、深ければすなわち専らに、浅ければすなわち散ず。国を去り境を越えて師するものは絶地なり。四達するものは衢地なり。入ること深きものは重地なり。入ること浅きものは軽地なり。固を背にし隘を前にするものは囲地なり。徃くところなきものは死地なり。このゆえに散地にはわれまさにその志を一にせんとす。軽地にはわれまさにこれをして属せしめんとす。争地にはわれまさにその後に趨かんとす。交地にはわれまさにその守りを謹まんとす。衢地にはわれまさにその結びを固くせんとす。重地にはわれまさにその食を継がんとす。圮地にはわれまさにその塗に進まんとす。囲地にはわれまさにその闕を塞がんとす。死地にはわれまさにこれに示すに活きざるをもってせんとす。ゆえに兵の情、囲まるればすなわち禦ぎ、已むを得ざればすなわち闘い、過ぐればすなわち従う。
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およそ敵国に進撃したばあいのやりかたとしては、深く入り込めば団結するが浅ければ逃げ散るものである。本国を去り国境を越えて軍をすすめた所は絶地である。四方に通ずる中心地がク地であり、深く侵入したところが重地であり、少し入っただけのところは軽地であり、背後が険しく前方が狭いのは囲地であり、行き場がないのは死地である。 |
このゆえに諸侯の謀を知らざる者は預め交わることあたわず。山林、険阻、沮沢の形を知らざる者は軍を行ることあたわず。郷導を用いざる者は地の利を得ることあたわず。四五の者、一を知らざるも覇王の兵にあらざるなり。それ覇王の兵、大国を伐てば、すなわちその衆聚まることを得ず。威、敵に加うれば、すなわちその交わり合うことを得ず。このゆえに天下の交わりを争わず、天下の権を養わず、己の私を信べ、威、敵に加わる。ゆえにその城は抜くべく、その国は隳るべし。無法の賞を施し、無政の令を懸け、三軍の衆を犯すこと一人を使うがごとし。これを犯すに事をもってし、告ぐるに言をもってすることなかれ。これを犯すに利をもってし、告ぐるに害をもってすることなかれ。これを亡地に投じてしかるのちに存し、これを死地に陥れてしかるのちに生く。それ衆は害に陥れて、しかるのちによく勝敗をなす。
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諸侯たちの腹の内が分からないのでは、前もって同盟することができず、山林やけわしい地形や沼地などの地形が分からないのでは、軍隊を進めることができず、その土地に詳しい案内役を使えないのでは、地形の利益を収めることはできない。
これら三つのことは、その一つでもしらないでは覇王軍ではない。 |
ゆえに兵をなすの事は、敵の意に順詳し、敵を一向に并せて、千里に将を殺すに在り。 これを巧みによく事を成す者と謂うなり。 このゆえに政挙ぐるの日、関を夷め符を折りて、その使を通ずることなく、 廊廟の上に厲まし、もってその事を誅む。 敵人開闔すれば必ず亟かにこれに入り、その愛するところを先にして微かにこれと期し、践墨して 敵に随い、もって戦事を決す。 このゆえに始めは処女のごとく、敵人、戸を開き、 後には脱兎のごとくにして、敵、拒ぐに及ばず。
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そこで戦争を行ううえで大切なことは、敵の意図を十分に把握することである。敵の意図をのみこんで直進し、千里のかなたでその将軍をうちとる、それを巧妙にうまく戦争をなしとげたいというものである。 |
〇第一 始計篇
(戦う前に心得ておくべきこと、準備しておくべきこと)
〇第二 作戦篇
(戦争準備計画についての心得)
〇第三 謀攻篇
(武力ではなく「はかりごと」の重要性)
〇第四 軍形篇
(攻撃・守備、それぞれの態勢のこと)
〇第五 兵勢篇
(戦う前に整えるべき態勢)
〇第六 虚実篇
(「虚」とはすきのある状態、「実」は充実した状態の制御方法)
〇第七 軍争篇
(戦場において、軍をどうやって動かす方法)
〇第八 九変篇
(戦場で取るべき九つの変化について説明)
〇第九 行軍篇
(戦場における行軍の考え方)
〇第十 地形篇
(戦う時の事項を地形と軍隊の状況の二つに分け六つの状況を解説)
〇第十一 九地篇
(地形篇に続き、戦場となる地形と兵の使い方)
〇第十二 火攻篇
(火攻めを中心に解説)
〇第十三 用間篇
(敵の情報を入手するには間諜の用い方)
著者: 孫氏
『孫子』(そんし)は、紀元前500年ごろの中国春秋時代の軍事思想家孫武の作とされる兵法書。武経七書の一つ。古今東西の兵法書のうち最も著名なものの一つである。紀元前5世紀中頃から紀元前4世紀中頃あたりに成立したと推定されている。
『孫子』以前は、戦争の勝敗は天運に左右されるという考え方が強かった。孫武は戦争の記録を分析・研究し、勝敗は運ではなく人為によることを知り、勝利を得るための指針を理論化して、本書で後世に残そうとした。
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