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孫子の兵法 「第十一章 九地篇」  (岩波文庫) 金谷 治※訳注

Book Summary
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理解度チェック

本サイトで紹介する本に関する理解度チェック問題になります。


問題を解きながら、本の概要を理解できるように、
問題以上に解説に力を入れておりますので、是非活用ください。

第十一章 九地篇」の要点(状況に合わせた戦術を使う

[3つのポイント]

 ・土地環境には9種類あり、兵士心理に影響をおよぼすことを理解しておくこと
 ・戦争を行う上での大切なことは敵の心を把握すること
 ・敵情を読み、それに応じた行動をとりながら、機会を見て一気に勝敗を決すること

 

[サマリ]

地形篇に続き、戦場となる地形と兵の使い方について述べられています。九地篇では、兵の士気を維持する方法に重点を置いて解説されています。九種類の土地環境で兵士たちの心理にどのように作用するか、どういう影響を与えるかを踏まえた上での作戦行動を説いています。

具体的な地勢ではなく、軍の置かれる状況によって九種に分類し、採るべき方策を述べています。

  • 散地:軍の逃げ散る土地では、士気が維持しにくく、軍が背走しやすい土地で、このような場所で戦ってはならない。
  • 軽地:軍の浮き立つ土地は、敵地に入って浅い場所。本国に逃げ帰ろうとするのが困難でないので士気を維持しにくく、長くとどまっていてはならない。
  • 争地:敵と奪い合う土地は、いわゆる「戦略上の要衝」で確保した方が有利になる土地。敵に先手を取られたなら攻撃を仕掛けてはならない。
  • 交地:往来に便利な土地は、軍の移動には便利であるが、だからこそ分散させてはならない(敵も行軍しやすいため)。
  • 衝地:地域交通の中心地は、行軍の要衝となる地で他国との往来に便利な場所。ここを確保したなら諸侯と外交を結び、戦局を有利に進めるべきである。
  • 重地:補給上の重要地点は、敵地の奥で、生産性もしくは経済性に優れて、根拠地とするにふさわしい土地。食料を掠奪によって入手するのがよい。
  • ヒ地:軍を進めにくい土地は、山林等の険しい地勢のために軍を進めにくい。このような土地では有利に応戦できないので、なるべく早く通り過ぎるのがよい。
  • 囲地:囲まれた土地は、動きが制限され、敵が小勢でも有利に戦える土地。戦術上の不利を補うために謀略を用いるのがよい。
  • 死地:死すべき土地は、戦わないと生き残ることのできない土地。激戦して切り抜けなくてはならない。

 

 

「第十一章 九地篇」の読み下し文・現代語訳
読み下し文 現代語訳
孫子曰く、兵をもちいるの法は、散地さんちあり、軽地けいちあり、争地そうちあり、交地こうちあり、衢地くちあり、重地ちょうちあり、圮地ひちあり、囲地いちあり、死地しちあり。諸侯みずからその地に戦うを散地さんちとなす。人の地に入りて深からざるものを軽地けいちとなす。われれば利あり、かれるもまた利あるものを争地そうちとなす。われもってくべく、かれもって来たるべきものを交地こうちとなす。諸侯の地三属さんぞくし、さきに至れば天下の衆をべきものを衢地くちとなす。人の地に入ること深くして、城邑じょうゆうにすること多きものを重地じゅうちとなす。山林、険阻けんそ狙沢そたく、およそ行きがたきの道を行くものを圮地ひちとなす。りて入るところのものせまく、りて帰るところのものにして、かれにしてもってわれの衆を撃つべきものを囲地いちとなす。く戦えばそんし、く戦わざればほろぶるものを死地しちとなす。このゆえに散地さんちにはすなわち戦うことなかれ。軽地けいちにはすなわちとどまることなかれ。争地そうちにはすなわちむることなかれ。交地こうちにはすなわちつことなかれ。衢地くちにはすなわちまじわりをがっす。重地じゅうちにはすなわちかすむ。圮地ひちにはすなわち行く。囲地いちにはすなわちはかる。死地しちにはすなわちたたかう。  孫子はいう。土地環境における戦争の原則は
  • 散地:軍の逃げ散る土地では、士気が維持しにくく、軍が背走しやすい土地で、このような場所で戦ってはならない。
  • 軽地:軍の浮き立つ土地は、敵地に入って浅い場所。本国に逃げ帰ろうとするのが困難でないので士気を維持しにくく、長くとどまっていてはならない。
  • 争地:敵と奪い合う土地は、いわゆる「戦略上の要衝」で確保した方が有利になる土地。敵に先手を取られたなら攻撃を仕掛けてはならない。
  • 交地:往来に便利な土地は、軍の移動には便利であるが、だからこそ分散させてはならない(敵も行軍しやすいため)。
  • 衝地:地域交通の中心地は、行軍の要衝となる地で他国との往来に便利な場所。ここを確保したなら諸侯と外交を結び、戦局を有利に進めるべきである。
  • 重地:補給上の重要地点は、敵地の奥で、生産性もしくは経済性に優れて、根拠地とするにふさわしい土地。食料を掠奪によって入手するのがよい。
  • ヒ地:軍を進めにくい土地は、山林等の険しい地勢のために軍を進めにくい。このような土地では有利に応戦できないので、なるべく早く通り過ぎるのがよい。
  • 囲地:囲まれた土地は、動きが制限され、敵が小勢でも有利に戦える土地。戦術上の不利を補うために謀略を用いるのがよい。
  • 死地:死すべき土地は、戦わないと生き残ることのできない土地。激戦して切り抜けなくてはならない。
いわゆるいにしえく兵をもちうる者は、よく敵人をして前後あい及ばず、衆寡しゅうかあいたのまず、貴賤きせんあい救わず、上下じょうげあいおさめず、そつ離れて集まらず、兵がっしてととのわざらしむ。利にがっして動き、利に合せずしてむ。  昔の戦争の上手な人は、敵軍に前軍と後軍の連絡ができないようにさせ、大部隊と小部隊が助け合えないようにさせ身分の高いものと低いものが互いに救い合わず上下のモノが互いに助け合わないようにさせた。こうして味方の有利な状況になれば行動をおこし、有利にならなければ機会をまった。
あえて問う、敵おおく整いてまさに来たらんとす。これをつこといかん。曰く、まずその愛するところをうばえ、すなわち聴かん、と。兵の情は速やかなるをしゅとす。人の及ばざるに乗じ、はからざるの道により、そのいましめざるところをむるなり。
敵が秩序だった大軍でこちらを攻めようとしているときの対処方法は、敵に先んじて敵の大切なものを奪取すれば、敵はこちらの思い通りになるであろう。戦争の実情は迅速が第一、敵の配備が終わらない隙をついて、敵が警戒していないところを攻撃する。
およそかくたるの道は、深く入ればすなわち専にして、主人たず。饒野じょうやかすめて三軍しょく足り、つつしみ養いて労するなく、気をあわせ力を積み、兵をめぐらし計謀けいぼうしてはかるべからざるをなす。これをくところなきに投ずれば、死すもかつげず。死いずくんぞざらん。士人しじん力を尽くさん。兵士、はなはだおちいればすなわちおそれず。くところなければすなわち固く、深く入ればすなわちこうし、むを得ざればすなわち闘う。このゆえに、その兵おさめずしていましめ、求めずして、約せずして親しみ、令せずして信ず。しょうを禁じを去り、死に至るまでくところなし。わが士、余財よざいなきは貨をにくむにあらず。余命よめいなきは寿じゅにくむにあらず。れい、発するの曰、士卒しそつする者はなみだえりうるおし、堰臥えんがする者はなみだあごまじわる。これをくところなきに投ずればしょけいゆうなり。
およそ敵国に進撃した場合、兵士はあまりにも危険な立場に落ち込んだ時にそれを恐れず、行き場がなくなった時に心も固まり、深く入り込んだ時に団結し、戦わないでおれなくなった時には戦う。そういう苦難に落ち込んだ軍隊は指揮官が整えなくとも戒慎し、求めなくとも力戦し、拘束せずとも親しみ、法令を定めなくても誠実である。わが兵士たちに余った財物を焼却するのは物資を嫌ってそうするのではなく、のこった生命を投げ出すのは長生きを嫌ってそうするものではない。やむにやまれず決戦するためである。
ゆえへいもちうるものは、たとえば率然そつぜんごとし。率然そつぜんとは、常山じょうざんへびなり。くびてばすなわいたり、てばすなわくびいたり、なかてばすなわ首尾しゅびともいたる。あえて問う、兵は率然そつぜんのごとくならしむべきか。曰く、なり。それ呉人ごひと越人えつひとあいにくむも、その舟を同じくしてわたり風にうに当たりては、そのあい救うや左右の手のごとし。このゆえに馬をならべ輪をむるも、いまだたのむに足らず。勇をひとしくしいつのごとくするはせいの道なり。剛柔ごうじゅうみなるは地の理なり。ゆえにく兵をもちうる者は、手をたずさうること一人いちにんを使うがごとし。むをざらしむればなり。
 そこで戦争の上手な人は、たとえば率然のようなものである。率然というのは常山にいる蛇の事である。その頭を撃つと尾が助けに苦し、その尾を撃つと頭が助けにくるし、その腹を攻撃すると尾と頭が一緒にかかってくる。

軍隊を勇者も怯者も等しく勇敢に整えるのは、その治め方によるところである。剛強者も軟弱者もひとしく十分の働きをするのは土地の形勢の通りによるところである。戦争の上手な人が軍隊をまるで手を綱いるかのように一体(すなわち率然)ならせるのは、兵士たちを戦うよりほかにどうしようもないようにするからである。

軍にしょうたるのことは、静もって幽、せいもって、よく士卒しそつ耳目じもくにし、これをして知ることなからしむ。そのことえ、そのぼうあらため、人をしてることなからしめ、そのきょえ、そのみちにし、人をしておもんぱかることを得ざらしむ。ひきいてこれと期すれば、高きに登りてそのていを去るがごとし。ひきいてこれと深く諸侯しょこうの地に入りて、その機を発すれば、舟をかまを破り、群羊ぐんようるがごとし。駆られてき、駆られて来たるも、くところを知ることなし。三軍の衆をあつめ、これを険に投ず。これ軍にしょうたるのことうなり。九地きゅうちへん屈伸くっしんの利、人情にんじょうさっせざるべからず。
将軍たるものの仕事は物静かで奥深く、正大でよく整っている。士卒の耳めをうまくくらまして軍の計画を知らせないようにし、そのしわざを様々かえて策謀を更新して人々に気づかれないようにし、その駐屯地を転々と変えその行路を迂回して人々に推し量れないようにする。
およそかくたるの道は、深ければすなわちもっぱらに、浅ければすなわち散ず。国を去りきょうを越えて師するものは絶地ぜっちなり。四達したつするものは衢地くちなり。入ること深きものは重地ちょうちなり。入ること浅きものは軽地けいちなり。にしあいを前にするものは囲地いちなり。くところなきものは死地しちなり。このゆえに散地さんちにはわれまさにそのこころざしいつにせんとす。軽地けいちにはわれまさにこれをして属せしめんとす。争地そうちにはわれまさにそのうしろおもむかんとす。交地こうちにはわれまさにその守りをつつしまんとす。衢地くちにはわれまさにそのむすびを固くせんとす。重地ちょうちにはわれまさにそのしょくがんとす。圮地ひちにはわれまさにそのみちに進まんとす。囲地いちにはわれまさにそのけつふさがんとす。死地しちにはわれまさにこれに示すにきざるをもってせんとす。ゆえに兵のじょうかこまるればすなわちふせぎ、むを得ざればすなわち闘い、ぐればすなわちしたがう。
 およそ敵国に進撃したばあいのやりかたとしては、深く入り込めば団結するが浅ければ逃げ散るものである。本国を去り国境を越えて軍をすすめた所は絶地である。四方に通ずる中心地がク地であり、深く侵入したところが重地であり、少し入っただけのところは軽地であり、背後が険しく前方が狭いのは囲地であり、行き場がないのは死地である。
このゆえに諸侯のはかりごとを知らざる者はあらかじめ交わることあたわず。山林、険阻けんそ沮沢そたくけいを知らざる者は軍をることあたわず。郷導きょうどうもちいざる者は地の利をることあたわず。四五しごの者、いつを知らざるも覇王はおうの兵にあらざるなり。それ覇王はおうの兵、大国をてば、すなわちその衆あつまることを得ず。、敵に加うれば、すなわちその交わり合うことを得ず。このゆえに天下の交わりを争わず、天下のけんやしなわず、おのれわたくしべ、、敵に加わる。ゆえにその城はくべく、その国はやぶるべし。無法のしょうを施し、無政のれいけ、三軍のしゅうを犯すこと一人いちにんを使うがごとし。これを犯すにことをもってし、ぐるにげんをもってすることなかれ。これを犯すに利をもってし、ぐるに害をもってすることなかれ。これを亡地ぼうちに投じてしかるのちにそんし、これを死地しちおとしいれてしかるのちにく。それ衆は害におとしいれて、しかるのちによく勝敗しょうはいをなす。
 諸侯たちの腹の内が分からないのでは、前もって同盟することができず、山林やけわしい地形や沼地などの地形が分からないのでは、軍隊を進めることができず、その土地に詳しい案内役を使えないのでは、地形の利益を収めることはできない。

これら三つのことは、その一つでもしらないでは覇王軍ではない。

ゆえに兵をなすのことは、敵の意に順詳じゅんしょうし、敵を一向いっこうあわせて、千里にしょうを殺すにり。 これをたくみによくことを成す者とうなり。 このゆえにせいぐるの日、かんとどりて、その使を通ずることなく、 廊廟ろうびょうの上にはげまし、もってそのことむ。 敵人開闔かいこうすれば必ずすみやかにこれに入り、その愛するところをさきにしてひそかにこれとし、践墨せんぼくして 敵にしたがい、もって戦事せんじを決す。 このゆえに始めは処女しょじょのごとく、敵人、戸を開き、 のちには脱兎だっとのごとくにして、敵、ふせぐにおよばず。
 そこで戦争を行ううえで大切なことは、敵の意図を十分に把握することである。敵の意図をのみこんで直進し、千里のかなたでその将軍をうちとる、それを巧妙にうまく戦争をなしとげたいというものである。
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本書の目次

  〇第一 始計篇 
(戦う前に心得ておくべきこと、準備しておくべきこと)

 〇第二 作戦篇 
(戦争準備計画についての心得)

 〇第三 謀攻篇 
(武力ではなく「はかりごと」の重要性)

 〇第四 軍形篇 
(攻撃・守備、それぞれの態勢のこと)

 〇第五 兵勢篇 
(戦う前に整えるべき態勢)

 〇第六 虚実篇 
(「虚」とはすきのある状態、「実」は充実した状態の制御方法)

 〇第七 軍争篇 
(戦場において、軍をどうやって動かす方法)

 〇第八 九変篇 
(戦場で取るべき九つの変化について説明)

 〇第九 行軍篇 
(戦場における行軍の考え方)

 〇第十 地形篇 
(戦う時の事項を地形と軍隊の状況の二つに分け六つの状況を解説)

 〇第十一 九地篇 
(地形篇に続き、戦場となる地形と兵の使い方)

 〇第十二 火攻篇 
(火攻めを中心に解説)

 〇第十三 用間篇 
(敵の情報を入手するには間諜の用い方)

著者・出版

著者: 孫氏

『孫子』(そんし)は、紀元前500年ごろの中国春秋時代の軍事思想家孫武の作とされる兵法書。武経七書の一つ。古今東西の兵法書のうち最も著名なものの一つである。紀元前5世紀中頃から紀元前4世紀中頃あたりに成立したと推定されている。

『孫子』以前は、戦争の勝敗は天運に左右されるという考え方が強かった。孫武は戦争の記録を分析・研究し、勝敗は運ではなく人為によることを知り、勝利を得るための指針を理論化して、本書で後世に残そうとした。

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