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陽明学 生き方の極意(PHP研究所)守屋淳

Book Summary
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レビュー

陽明学研究の第一人者で今なお多くのファンを持つ著者が、陽明学の古典『伝習録』のなかから、その核心をわかりやすく解説します。陽明学の成り立ちから王陽明の生涯、朱子学との違いなど、陽明学も予備知識も説明から説明してくれるので、初めて触れる人でも難しくありません。『伝習録』のことばの中から、陽明学のエッセンスに迫ります。陽明学の理解を深め、現代を生きる指針となる一冊。知識よりも実践を重んじる陽明学の教えは、毎日の仕事や生活のなかで心の糧となるはずです。

儒教は江戸時代の社会を形作った道徳教育で、儒教の一種が「陽明学」です。西郷隆盛、大塩平八郎、吉田松陰。行動力のある人物がこぞって夢中になった学問です。『陽明学 生き方の極意』では、王陽明という人物の生涯についても詳しく触れています。生涯の描写もショートストーリーみたいになっていて、臨場感がある。すごく感情移入がしやすいです。どんなに素晴らしい格言を残している偉人でも、その人の生き方に魅力を感じないと思います。その点、本書は王陽明はすごさを事細かく理解できるものだと思います。例えば、南京の政治を任されると、界隈の反乱を何度も鎮めて、二度と反乱が起きないように民衆の生活を安定させていった。こういう人の教えだからこそ興味も湧きます。

そしてなにより、陽明は聖人と呼ばれる域に辿り着くまで迷いまくって、道をはずれたり、宗教にハマったり、人間らしい弱い部分を存分に見せています。親近感を持てるからこそ、自分の行動に落とし込めるのだと思います。このような観点でも陽明の生涯がいかに波乱に満ちていたか。その背景をおもしろく描いている点でも、『陽明学 生き方の極意』は優れた入門書だといえます。

本書のPoint
心即理( 心が即ち理である )
陽明学に流れる「心即理」というテーゼ命題である。当時、中国では、朱子学が支配的なイデオロギーだったのですが、朱子学ではこうなっています。理 は万物が万物として成り立っている根本の原理である。一方、「心」は二つに分けられます。
 心 ⇒ 性 : 天から賦与された純粋な善性
 心 ⇒ 情 : 感情、心の動き(人欲も含む)
朱子学では、「性」にのみ「理」を認め、「情」はコントロールして克服されねばならないとみなしていました。「性即理」、外的な「理」を学ぶと同時に、内的な理である「性」を極めるという考え方です。 一方、陽明学では、「性」も「情」もひっくるめて、「心」そのものが「理」であると定立しています。つまり、「理」は自分の中に、すでにあるということです。 ということで、朱子学では、万物の理を窮めて知識を拡充することが修養の方法ですが、 陽明学では、わが心に理があるとし、その理をもって自分を実践的に奮い立たせることが、自分を磨く修養の方法となります。
■ 知行合一(「知ること」と「行うこと」は一体のもの)
” 知は行の始め、行は知の成るなり。”
(知ることは行うことの始めであり、行うことは知ることの完成である。)
『伝習録』のなかの、王陽明の言葉です。 実際に体験しないと分からないというのはあります。例えば、ずっと南国暮らしで雪を体感したことのない人にとって、いくら知識をためても、雪に関する知の完成には至りません。だけど、雪について聞き知った段階で、その南国暮らしの人間は、雪を体感し、真の知を得るかもしれないというスタートラインに立っています。心が動いただけでも行い、ともいえるのです。 知ることと行うことを分離せずに、この一連の流れを全体として捉えることが大切ということです。
良知(人間が心の内にもつ先天的な素晴らしい素質)
人間の心は理そのものであるのですが、意識に上る段階で善悪がせめぎ合ってしまいます。そこで善を見極めるのが良知で、良知をしっかり発現すれば、人欲は吹き払われるというのです。
「知行合一」の考え方では、知ることと行動することは一体です。「良知」も同じで、善い行いがしたいな、なんて心に浮かんでくる良知を認識しているだけでは、良知に至ったとは言えません。実践してこそ良知に至るのです。 知行合一によて良知に至ることを、「至良知」といいます。 ですが、「良知をしっかり発現する」などと言われても、自分の中の小悪魔や怠け者をかき消すのが難しい・・・それが人間です。 「良知」の発現、それを継続させていくには、「志」が大きな支えになると、王陽明は言っています。 「志」とは、第一に、しっかりと目標を定め、第二に、その目標に向かって進んでいく意欲、この二つです。 「志」があって初めて行動ができるようになり、自分を見失わない指標になります。
■事上磨錬(自分を磨く訓練)
自分を磨く方法は二つあるといいます。
 1.古典を読み、歴史に学ぶ
  2.毎日の仕事や人付き合いの中で学ぶ
知識の獲得と行動ですね。自分を磨くということに関しても、「知行合一」がいえるわけですね。 どちらも大切なのですが、陽明学では、この2つ目を「事上磨錬」とよび、重要視しています。頭でっかちの書物の知識だけでなく、実際の経験や苦労を重ねることで、もっと自分を磨くことができるということですね。ですが、知識が足りないと、視野が狭くなりがちなので、この2つのバランスが大切なのでしょう。この難しい事上磨錬を貫くにあたって、3つのポイントが挙げられています。
 ①.根本をしっかり把握してかかること
 ②.自分にはあくまでもきびしく、わずかな疑問も残さないこと

 ③.せっかちに効果を期待せず、一歩一歩着実に歩むこと
■万物一体の仁(天地万物は、人間と本来一体のもの)
万物の根源は同じで、この世の中のものすべてを一体とみなす思想です。一体なのだから、他者の苦しみも自分の苦しみとなります。よって「良知」は個人の中に留まるものではなく、社会的実践へと向かいます。そういった心を「万物一体の仁」といいます。 こういった考え方に自分を満たすことができたら、行動へと駆り立てる情熱の源泉力になりそうです。
■まとめ( 「良知」を発現し、行動する)

1.人間は心の中に先天的にある素晴らしい素質、「良知」を持っている。より意識の高い人間を目指すには、常に「良知」の発現をはかって修養をつとめければならない。継続には、「志」を打ち立てる。

2.「良知」の発現において、知ることと行うことは一体でなければならない。自分を磨く際も、仕事における実践的な経験が重要になる。

3.「良知」は、万物と人間は本来一体のものとする「仁の心」であり、他人の苦しみも自分の苦しみである。なので「良知」の発現は、自分だけの修養にとどまらず、社会的実践へとつながる情熱を生み出すことになる。
本書の目次

第1章 陽明学と王陽明の生涯
第2章 知行合一をめざす
第3章 事上にあって自分を磨く
第4章 万物一体の仁と抜本寒源論
第5章 志を立て、心を燃やせ
第6章 王朝語録

著者・出版

守屋淳

1965年生まれ 作家/グロービス経営大学院特任教授

早稲田大学第一文学部卒業 現在は作家として『孫子』『論語』『韓非子』『老子』『荘子』などの中国古典や、渋沢栄一などの近代の実業家についての著作を刊行するかたわら、グロービス経営大学院アルムナイスクールにおいて教鞭をとる。
編訳書に60万部の『現代語訳 論語と算盤』や『現代語訳 渋沢栄一自伝』、著書にシリーズで20万部の『最高の戦略教科書 孫子』『マンガ 最高の戦略教科書 孫子』『組織サバイバルの教科書 韓非子』、などがある。
2018年4~9月トロント大学倫理研究センター客員研究員。

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