為末大さんが書かれた熟達論は、マラソンの高橋尚子さん、将棋の羽生善治さん、車いすテニスの国枝さん、IPS細胞の山中伸弥さん、ジャパネットの高田社長など数々の超一流の達人に取材して見出した極意が纏められている。宮本武蔵の五輪の書の現代版アップデート版というのが第一印象。超一流になるために辿るべき「遊(ゆう)・型(かた)・観(かん)・心(しん)・空(くう)」の5つのステップについて 書かれている。
「もしかして熟達者は分野を超えて共通のプロセスを歩んでいるのではないか」私がずっと興味を持っていることは人間総体として学び続けることです。知識や技術を手に入れる方法は、世の中に多く出回っています。ダイエットの方法も、英語学習の方法も確立されています。しかし、思うようにならない心も含めて、他ならぬ自分自身を扱う技術だけは自分自身で見つけるしかありません。人間総体として学ぶとは、自分の扱い方も学んでいくということです。
「型があったからうまくいった」「型に押し込められて個性がなくなった」「考えて戦略的にいくことが大事だ」「考えるより勘で決めた方がうまくいく」「いろんな人のいい部分を取り入れるといい」「よそ見をせずにまずは誰か一人を徹底的に真似ることだ」
などなど学びに関しては人によって矛盾する意見がありますが、著者はこれらはただの段階の違いだと理解しています。この本では遊、型、観、心、空の5段階のプロセスを経て、人は熟達に至ると考えています。「空」の段階は、ゾーン体験に絞り込み書かれたそうです。
●本書のPoint |
⓵遊(ゆう) (どういうこと?)遊ぶようにおもしろがるところから始める。楽しむことから始めないと続かないし、飛躍することは無い。 (何をする?)自分が楽しいと思えることを書き出してみる。自分の過去と今取り組んでいることが楽しいこととどうかかわっているかを考えてみる。 |
⓶型(かた) (どういうこと?) 技術やマインドの土台となる型を身に着ける。何度も何度も反復して癖をつける。型から始めては、長期的には伸び悩むので游から始めることが大切。 (何をする?) 游からこれだというものが見つかったら、何度も何度も反復して繰り返す。型選びは重要で、シンプルである、検証できる、万能といわれていない、3つの条件を満たすものを型とする。 |
⓷観(かん) (どういうこと?) 自分も他者もよくよく観察して分析する。自分が取り組んでいることを深く理解できるようになる。 (何をする?) 部分的、局所的に観察していてはダメ、全体像を観察する。真似したい人のボールペンだけ真似しても結果はでない、考えから行動の全体感を分析する。 |
⓸心(しん) (どういうこと?) 大事なセンターピンとなる部分を掴む。ここだけは譲れないというポイントが明確になり型から外れ独自性。 (何をする?) 独自性を出したいなら、事象を抽象化してポイントを見極め、自分の状況に合わせて具体化して活用することで独自性が磨かれる。 |
⓹空(くう) (どういうこと?) 無意識になる。熟達した達人が到達ゾーン状態。意識が知らず知らずのうちに邪魔をしている。 (何をする?) 意識的にゾーンに入ることはできない。環境を整えることは出来る。そして日頃の鍛錬の積みかさねがないとゾーンには入れないので、目の前のことに全力を傾ける。 |
序 熟達の道を歩むとは
第1段階 遊―不規則さを身につける
第2段階 型―無意識にできるようになる
第3段階 観―部分、関係、構造がわかる
第4段階 心―中心をつかみ自在になる
第5段階 空―我を忘れる
為末大(ためすえだい)
1978年広島県生まれ。スプリント種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得者。男子400メートルハードルの日本記録保持者(2020年8月現在)。現在は人間理解のためのプラットフォーム為末大学(Tamesue Academy)(https://www.youtube.com/c/TamesueAcademy)の学長、アジアのアスリートを育成・支援する一般社団法人アスリートソサエティ(http://www.athletesociety.org/)の代表理事を務める。新豊洲Brilliaランニングスタジアム(http://running-stadium.tokyo/)館長。
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