スポンサーリンク

志を育てる (東洋経済新報社) 田久保善彦

Book Summary
スポンサーリンク
レビュー

本書は、現在日本では、社会の成熟化が進み、少子高齢化、経済のゼロ成長といった、厳しい状況に入っており、先行きが非常に不透明な状況だ。そのような状況下で「自分とは何を付加価値として世の中に還元するのか」「何のために働くのか」といった、自分起点の、まずは小さい志を見つけることが重要になってくる。自らの心と向き合い、「志」を醸成するきっかけを得、有意義な人生を歩まれる方が一人でも増えることを目指し執筆に取り組んだと書かれている。

本書では、「志」を「一定の期間、人生をかけてコミットできるようなこと」と定義している。解説を含めて言い換えると、2~5年程度の期間に、意志に基づいて自分の時間や意識を傾けて取り組むこと、を指している。

一定期間、人生をかけてコミットする目標を「小志」、一生涯を通じて達成しようとするものを「大志」と分けて、大志の実現は無数の小志が積み重なっていきながら、成されると考えれば、納得してもらえるだろう。このように定義すれば、中学の時に一生懸命取り組んだ野球、大学受験に真剣に取り組んだ一年、学生時代に大会での優勝を目指して頑張った体育会での活動など、その時々の営みを「小志」としてとらえることができるはずだ。

そのひとつひとつの志は、5つのフェーズを持つサイクルとなっている。

ある時に胸に抱いた志を達成するために、必死に活動し、いずれ終焉(しゅうえん)を迎える。それまでの自らの活動の意味や位置づけを客観視しつつ、次に取り組むことを自問自答する。そして、新たな目標を設定し、またその達成に取り組んでいく――。この5つのフェーズは、スパイラル状に成長していく。

継続的に、志を育てていくために、自分自身がこのサイクルのなかでどのフェーズにいるのかを確認し、次のステップに進むことにチャレンジしてみていただきたい。

本書のPoint
志はどのようにカタチづくればよいか?


①志のサイクルに影響を与える要素を理解する
志を醸成するサイクルの説明に入る前に、まずは志に影響を与える要素について説明します。 この「影響を与える要素」こそが、「志」を醸成するにあたり、重要なインプットとなるからです。 我々が普段体験しているような「実体験」や「仮想体験」が、志を醸成するにあたって、次の役割を果たしているそうです。
  「志」に踏み出すきっかけを与える役割
 「志」を実現する自信やエネルギーになる役割
 「志」のベースとなる価値観を育む役割

したがって、日常や仕事上の「実体験」や「仮想体験」を見過ごすことなく、丁寧に意味づけして、確実に「志」のインプットに変換していくことが求められます。 具体的には実体験だと ①場所の変化 ②情報の入手 ③事件との遭遇 ④人との関わり、仮想体験だと ⑤一定期間の経験 ⑥哲学や思想・宗教との出会い ⑦教育機関での知識・スキルの習得 つまり意識的に行動し自分の価値観をアップデートしていくことが必要です。

②志が醸成させるサイクル
以下のサイクルは「一周すればゴール」ではなく、「螺旋階段のように際限なく続いている道」だと筆者は表現しています。

Step1:あるきっかけで目標を持つ(人生で最初の目標を設定する、または親などに設定される)
Step2:達成への取り組み(新たに見出した目標の達成に向けて、実行を進めていく段階)
Step3:取り組みの終焉(目標の達成に限らず、本人の心が折れたり、心変わりしたり、他の要因で終了させられたりなど、目標に到達できない場合も含めて、その取り組みがその人の中で終わってしまう段階)
Step4:客観視(自分が没入し取り組んでいた目標の位置づけや目標を取り巻く環境を、一定の距離をとって客観的に見つめ直す段階)
Step5:自問自答(自分自身にとって、その目標が何を意味するのか、自分が本当にしたかったことは何なのかを問い、答えを出す段階)
Step6:新たな目標の設定(客観視と自問自答のプロセスを経つつ、自身の価値観やスキル、実現可能性、リスクなどに鑑み、新たな目標(志)を見出していく段階。)

③志の成長の方向性

ただ、「成長」だと表現するんだったら、「どこに向かっているか?」も明らかにしなければなりません。「志」の成長の方向性は、 自律性社会性 の2軸で定義されます。この両軸を高めて行くことによって、自らの志を、「自分が決めた、みんなの志」へと昇華させることができます。以上のように、雲を掴むような存在である「志」が、ここまで論理的に体系化されていることに、驚きを隠せません。そもそも「志の醸成」に、「再現性」を持たせようとする姿勢自体、類を見ない、非常に価値あるものではないでしょうか
◯志の存在が与える3つの効用

①困難な状況を乗り切り、学び続ける精神的な支えとしての役割
②リーダーシップを発揮し周囲を巻き込むための旗としての役割
③自分の取り組みが、もともとの目的や目標からずれていないかを測り続ける心のアンカーとしての役割。
本書の目次

第1章 「志」とは何か
(「志」という言葉が意味するもの;なぜ志を抱いて生きることが重要なのか;本書のベースとなった研究の概略)

第2章 志醸成のサイクル
(志の醸成サイクル概観;五つのフェーズの詳細)

第3章 志のサイクルに影響を与える要素
(場所の変化;情報の入手、事件との遭遇;人とのかかわり;一定期間の経験;哲学や思想・宗教との出合い、教育機関での知識・スキルの習得)

第4章 志の成長の方向性
(自律性の定義;社会性の定義)

第5章 事例編
(知識賢治氏(株式会社テイクアンドギヴ・ニーズ代表取締役社長)

著者・出版

田久保善彦 Yoshihiko Takubo



グロービス経営大学院 経営研究科 研究科長
学校法人グロービス経営大学院 常務理事

慶應義塾大学理工学部卒業、学士(工学)、修士(工学)、博士(学術)。スイスIMD PEDコース修了。株式会社三菱総合研究所を経て現職。経済同友会幹事、経済同友会・規制制度改革委員会副委員長(2019年度)、ベンチャー企業社外取締役、顧問等も務める。著書に『ビジネス数字力を鍛える』『社内を動かす力』(ダイヤモンド社)、共著に『志を育てる(増補改訂版)』、『グロービス流 キャリアをつくる技術と戦略』、『27歳からのMBA グロービス流ビジネス基礎力10』、『創業三〇〇年の長寿企業はなぜ栄え続けるのか』、『これからのマネジャーの教科書』(東洋経済新報社)、『日本型「無私」の経営力』(光文社)、『21世紀日本のデザイン』(日本経済新聞社)、『MBAクリティカル・シンキングコミュニケーション編』、『日本の営業2010』『全予測環境&ビジネス』(以上ダイヤモンド社)、『東北発10人の新リーダー 復興にかける志』(河北新報出版センター)、訳書に「信念に生きる~ネルソン・マンデラの行動哲学」(英治出版)等がある。

コメント

タイトルとURLをコピーしました