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9割の社会問題はビジネスで解決できる(PHP研究所)田口一成

Book Summary
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レビュー

突然ですが、ソーシャルビジネスという言葉をご存知ですか?

ソーシャルビジネスが扱うのは、「儲からない」とマーケットから放置されている社会問題です。従来のビジネスも誰かの問題を解決して価値提供していますが、そこにはニーズがある=お金を払うターゲットがいます。

<ソーシャルビジネスと従来ビジネスの違い>
 ・ソーシャルビジネス:ニーズがない、マーケットに取り残された問題を解決
 ・従来のビジネス  :ニーズがある、マーケットとして成立する問題を解決

上記のように、従来のビジネスの根底には効率の追求があります。無駄を省いたプロセスで、適応できる人を雇って、なるべくコストを抑えようとするでしょう。しかし、社会問題に困っている当事者は効率重視のビジネスに適応できません。
非効率をあらかじめ計画に入れてデザインすることで、従来のビジネスが取り組まなかった問題をビジネスとして解決することを目指します。

本書の著者は、社会問題を解決するビジネス(ソーシャルビジネス)のみに特化し、世界15カ国、従業員は約1500名、グループの年商55億円超の事業を展開されているボーダレスジャパンの社長です。著者が、「誰一人取り残さない社会」の実現を目指して、社会問題をソーシャルビジネスで解決していくためのノウハウを惜しげもなく指南する一冊です。

本書のPoint
■ 恩送り
ソーシャルビジネスでは単純に効率を重視したビジネスよりコストが高くなり、ビジネスの難易度が高くなります。十分な資金がなくて諦めてしまう人や自分の生活を切り詰めて挑戦している人のために、ボーダレス・ジャパンには社会起業家を支援するユニークな取り組みがたくさんあります。

その中の2つを紹介します。
 ・恩送りで最大1500万円の起業資金を援助
 ・スタートアップ/バックアップの支援
ボーダレス・ジャパンが展開している40社の会社は、余剰利益を共通のポケットに入れて未来の社会起業家を支援しています。自分たちが起業するときに受けた支援を、未来の起業家に送るというシステム。また、スタートアップでマーケティング支援、バックアップで雇用関係など人事・総務的な業務を支援しているそうです。
ソーシャルビジネスの作り方
ソーシャルビジネスのつくり方は、①ソーシャルコンセプト⇒②制約⇒③ビジネスモデルの順につくります。


①ソーシャルコンセプトの作成方法
ソーシャルコンセプトは現状・理想・対策の3つから構成されます。
 現状:だれがどんな課題を持っていて、原因はなにか
 理想:実現したい未来を景色が見えるくらい具体化する
 対策:原因の対策
現状では、対象者のリアルな状況が浮かぶまでヒアリングなどで情報収集します。
例えばシングルマザーを助けたい!と思っても、シングルマザーが抱える課題は状況によってさまざまです。
・経済的に苦しい
・子どもの預け先がない
・就職先が見つからない
・ワンオペで精神的に辛い など
すべてを課題に万遍なく解決しようとすると、中途半端でなにも解決しない対策になってしまいます。 具体的な対象者の切実な課題をピンポイントで対策するほうが、結果的にたくさんの人の役に立つでしょう。 また、自分の過去の体験から課題を設定すると、
自分の体験を過度に一般化して当てはめてしまうリスクがあります。著者は”必ずしも原体験は必要ない”と述べています。 原体験はときに決めつけや思いこみになってしまうかもしれません。

②制約を明確にする
ソーシャルコンセプトが固まったら、ソーシャルコンセプトを叶えるための制約条件を洗い出します。 たとえば、難民の就業支援のビジネスでは、難民が帰国しても役に立つスキルが身に つけられるようにするという制約を設けました。 難民が働けるならなんでもいいわけではないということ。そして、パソコンの修理・再生という、帰国後も生かせる技術が身につく事業を始めたそうです。

③ビジネスモデルを作成する。
ビジネスモデルは従来のビジネスと同様、3Cや4Pなどのフレームワークで考えます。
特徴的なのは、ソーシャルインパクトを設定すること。いつのまにか売上や利益を追いかけてしまう状態を防ぐために、ソーシャルビジネスによってどのくらい社会問題が解決されているかを測る指標を設定します。
 
事例:AMOMA
AMOMAの『ソーシャルコンセプト』⇒『制約条件』⇒『ビジネスモデル』は以下の通りです。


本書の目次

■第1章 「社会問題を解決するビジネス」を次々と生み出す仕組み
・資本主義の本質は「効率の追求」。そこから取り残される人がどうしても出てくる
・非効率を含めてビジネスをリデザインする
・社会起業家の数=解決できる社会問題の数
・ソーシャルビジネスをたくさんつくる仕組み(起業家採用など)
・世界に広げていく仕組み(恩送りのエコシステムなど)
・ソーシャルインパクト─売上・利益よりも重要な独自の指標
・【Q&A】ボーダレスグループの「リアル」。よくある質問・疑問に答えます!

■第2章 この“仕組み”がどうやって生まれたのか。その実験の歴史
1.ソーシャルビジネスにたどり着くまで

・起業するも、寄付できたのはたったの7万円
・「ビジネスそのもので社会問題を解決できる! 」という気づきが大きな転機に
2.ソーシャルビジネスしかやらない会社へ
・本当に「助けたい人」のためになっているか
・ソーシャルビジネスは、失敗できない闘い
3.社会起業家のプラットフォームへ
・「1年に1事業」のペースでは遅すぎる!
・グループ外からも社会起業家を募るように

■第3章 「社会問題を解決するビジネス」のつくり方
・大原則「ビジネスモデルの前に、まずソーシャルコンセプト
・テーマ選びに原体験はいらない
1.ソーシャルコンセプトを考える
・社会問題の「現状」「理想」「対策」を徹底的に考える
・当事者ヒアリングのコツは「行動」を聞くこと
2.制約条件を整理する
3.ビジネスモデルを考える

・ソーシャルインパクトを設定する

■第4章 ビジネス立ち上げ後の「成功の秘訣」
・「勝ちシナリオ」が見つかるまでは、仮説・検証をひたすら繰り返す
・成長期に入るまでは、絶対に社員を雇ってはいけない
・事業が成功するかどうかは、続けるかどうかにかかっている
・ボーダレスグループ6社の事例

■終 章 一人ひとりの小さなアクションで、世界は必ず良くなる
・まずは一人ひとりが「ちゃんとした消費者」になる
・みんなが「ハチドリのひとしずく」の精神で

著者・出版

田口一成(たぐち かずなり)


早稲田大学商学部へ進学。大学2年時に栄養失調に苦しむ子どもの映像を見て「これぞ自分が人生をかける価値がある」と決意。大学3年時にワシントン大学へビジネス留学。卒業後は、株式会社ミスミに新卒入社。その後独立し、ボーダレス・ジャパンを創業。グループ全体の2021年度の売上は65億円。2022年7月現在、世界16ヵ国で47社のソーシャルビジネスを展開している。2018年10月、社会起業家養成所ボーダレスアカデミーを開校。次々とソーシャルベンチャーを生み出すボーダレスグループの仕組みは、2019年グッドデザイン賞を受賞。2019年、日経ビジネス「世界を動かす日本人50」、Forbes JAPAN「日本のインパクト・アントレプレナー35」に選出。2020年4月には地球温暖化問題を解決すべく、再生可能エネルギーを提供する新規事業「ハチドリ電力」を立ち上げる。著書に「9割の社会問題はビジネスで解決できる(PHP研究所、2021)」がある。

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