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新規事業の実践論(NewsPicksパブリッシング)麻生要一

Book Summary
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レビュー

「新規事業開発」をすべき理由がある。

少し極端な表現になりますが,企業の中にあるほぼすべての仕事はそれがどんなに花形の仕事であったとしても,「定年後には確実に価値がなくなる仕事」です。つまり,「企業の未来のための仕事ではあっても,働く1人ひとりの未来にはつながらない仕事」なのです。
でも,新規事業開発という仕事だけは,唯一企業の未来と働く個人の未来が一致する仕事。身につけたスキルを定年後にも活かすことができる仕事です。100年生きる時代だからこそ,すべてのサラリーマンのみなさんに,自分自身の老後のために新規事業に取り組んでみてほしいのです。

この変化の世の中において強みポートフォリオの中の1つとして,本書で扱う「新規事業開発」のスキルを持つべきである。

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日本人は企業より「社内企業」が向いている

日本では「起業」よりも「社内起業」の方が向いていると麻生さんは言う。中国のような政府主導で経済を回すのは,資本経済の日本では難しい。逆に,米国のようなスタートアップが日本で盛んにならない背景には構造的な理由がある。それは労働者が「守られすぎていること」。終身雇用が終わりかけているとは言え,簡単に従業員を解雇できない日本の仕組み上,サラリーマンは会社を辞めてまで起業しないのが実態だ。

ただしこれは考えようによっては逆の解釈もできて,労働者は「どれだけ失敗しても生活が揺らぐことはない」とも言える。その安定感こそを武器に,「社内起業」を促進する社会デザインを作ろう,というのが本書の趣旨。日本における大企業の影響力足るや,良くも悪くも凄まじい。結局新しいテクノロジーやビジネスを社会実装しようとしたときに,一番強いのは(少なくとも日本においては)大企業なのだ。

であれば,日本におけるイノベーションの中心は大企業のサラリーマンである。

社内起業家へと覚醒するWILLのつくり方

起業でも社内起業でも,何よりまず大事になるのは意志。それを本書では3つに整理している(これらを備えて覚醒することを「原体験化」と呼んでいる)。

  • 取り組む領域の明確さ:「Q1・誰の」「Q2・どんな課題を」
  • 使命感・圧倒的当事者意識:「Q3:なぜあなたが」

しかしこれらを最初から熱量を持っている人はそんなに多くない。でも,これらは醸成できる。大事なのは以下の2つの行動だ。

  • ゲンバに触れ,深く対話する。
    • 「ゲンバ」とは課題の根深い現場のこと。大きくは東日本大震災,介護,障害者雇用,子育て……それこそ世の中はまだ課題に溢れている。それを,賢しくも見て見ぬふりをしている現状を打破すべく,ゲンバへ向かい,1人の人間として課題と直面する。
  • ホンバを訪れ,刺激を受ける。
    • 新規事業開発の最前線の空気を吸うこと。社内のそういう部署を覗くもいいし,副業でベンチャーを手伝うもよし。

これらを往復することで,原体験化できればしめたもの。自分の中のからのコップが段々と満たされていくような感じを味わえる。

本書のPoint
■ 立ち上げ前に必ず知るべき新規事業「6つのステージ」

WILL(誕生):おぼろげでも取り組みたい顧客課題を見つけ,そこへのWILLの形成を目指す段階昇格条件:WILLが強いか,強まりそうか/走り抜けるチームかどうか

ENTRY期:魅力的で検証可能な事業仮設の提示を目指す段階昇格条件:顧客・課題・ソリューション仮説・検証方法のセットが成立しそうか

MVP期:事業性を伴った魅力的な事業計画の提示を目指す段階昇格条件:仮説が実証されているか/投資可能な事業計画か

SEED期:商用レベルでの事業の成立とグロースドライバーの発見を目指す段階昇格条件:実際に商売が成立したか/成長のための拡大方法が見えたか

ALPHA期:実際にビジネスが最初のグロースを実現することを目指す段階昇格条件:事業が成長状態に入ったか/組織戦略と対競合戦略が現実的か

BETA期:経営会議で議論できる最小限の規模に到達し,かつ成長状態であることを目指す段階昇格条件:成長率を落とさず成長状態が続くか/既存事業と遜色ないガバナンスか

EXIT期:新規事業の枠組みを卒業し,成長投資を獲得し,企業戦略の一部に組み込まれることを目指す段階昇格条件:社内での位置づけ整理・IR方針/既存事業を凌駕する規模への投資戦略

Company(卒業):既存事業と呼ばれる段階
■新規事業の立ち上げ方(ENTRY期〜MVP期)
何よりも「顧客起点」が大事。アイデアでもビジネスモデルでも,技術ですらなく,「顧客」を中心に据えて進められるかどうかがすべての岐路だという。

それを端的に表現する言葉が「300回顧客のところへ行け」
仮説を立てて,それを顧客のところに持っていってワークするかを確認する。このサイクルを数多くこなすことこそが新規事業開発の成功の秘訣だという。ちなみに,MVPとはMinimum Variable Product。仮説を具現化した最小限のプロトタイプを指す。
■ 新規事業の立ち上げ方(SEED期)
大事になる指標が2つある。
CAC=Customer Acquisition Cost(いち顧客あたり獲得単価)
LTV=Life Time Value(いち顧客あたり生涯利益)
本格的に事業化する際にはLTV>CACにしなければいけないが,SEED期では達成できるのは稀である。それよりも,Primary Customer Successを目指すこと。つまり,最初の顧客が新製品で課題解決できるかどうかをとことん追い求めるべき,ということ。いわば仮説の,実フィールドでの初めての検証である。
本書の目次

第1章 日本人に起業より「社内起業」が向いている理由
第2章 「社内起業家へ」と覚醒するWILL(意志)のつくり方
第3章 最初にして最大の課題「創業メンバーの選び方」
第4章 立ち上げ前に必ず知るべき新規事業「6つのステージ」
第5章 新規事業のつくり方(Entry期~MVP期)
第6章 新規事業のつくり方(SEED期)
第7章 「社内会議という魔物」を攻略する
第8章 経営陣がするべきこと、してはいけないこと
最終章 「社内起業家」として生きるということ

著者・出版

麻生要一(あそう・よういち)


株式会社アルファドライブ代表取締役社長 兼 CEO
東京大学経済学部卒業。現在は、起業家、経営者、投資家3つの顔を持つ。
株式会社リクルート(現リクルートホールディングス)に入社後、IT事業子会社(株式会社ニジボックス)を立ち上げ、150人規模まで事業を拡大後、新規事業開発室長として約1500の新規事業を支援。スタートアップ企業支援プログラム「TECH LAB PAAK」を設立し、約300社の立ち上げを支援したのち起業家に転身し、同時多発的に創業する。2018年2月に企業内新規事業開発を手がける株式会社アルファドライブを創業。4月に医療レベルのゲノム・DNA解析の提供を行う株式会社ゲノムクリニックを共同創業。6月より「UB VENTURES」ベンチャー・パートナーへ就任しベンチャーキャピタリスト業を開始。9月に株式会社ニューズピックスにて非常勤執行役員に就任。

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