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リーン・スタートアップ(日経BP)エリック・リース

Book Summary
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レビュー

リーンスタートアップとはコストをかけずに最低限の製品・サービス・機能を持った試作品を短期間でつくり、顧客の反応を的確に取得して、顧客がより満足できる製品・サービスを開発していくマネジメント手法のこと

プロセスとしては、 (MVPの)構築-(革新会計による)計測-(検証による)学習のフィードバックループをできるだけ早く回すのがリーン・スタートアップの考え方であり、押さえておくべき要点なのです。

需要につながらない製品やサービスをただの思い込みから開発してしまう際に発生する「ムダ」を省くためのマネジメント手法だといわれています。何事にも本質を理解していないと、想定外のことが発生した際、意思決定や行動が表面的になってしまいがち。情熱のみでプロダクトをつくったり、ツールの使い方を知っているだけだったり、プロセスに固執しすぎたりすれば、不十分となってしまうでしょう。リーンスタートアップはムダを出さないための手法で、自己満足で終わらない新規事業開発を可能とするもの。「マネジメントの第2世紀」ともいえる方法論なのです。

リーン(lean)とは「痩せた、引き締まった」という意味の単語で、リーン・スタートアップとは端的に言えば「無駄を排した」起業手法です。ここでいう「無駄」とは、予測ができないことを正しいと思い込んで計画を立て、実行する過程で発生する「やらなくてもよいこと」です。 不確実性が大きいスタートアップでは、そもそもどういう人が顧客になるのか、どういう製品を作るべきかさえもまだ分からないことが多いもの。にもかかわらず、思い込みで複雑な計画を立て、その実行のために多大な時間と労力を費やしてみても、「誰も欲しがらないモノ」を作ってしまう可能性が高いのです。もちろんこうした失敗から学ぶこともありますが、「その学びを得るためには、本当にそれだけの時間と労力を投資する必要があったのか?」については真剣に考える必要があるでしょう。リーン・スタートアップとは、この「学び」を得るためのムダを最小限に抑え、得られた学びによって改善を繰り返し、ビジョンを実現するための起業手法なのです。 そのためには、まず「本当に作るべきモノー顧客が欲しがり、お金を払ってくれるモノ」を突きとめることが重要です。 

ポイントとなるのが「検証による学び」と「実用最小限の製品(MVP)」と「 革新会計(イノベーションアカウンティング) 」と「方向転換(ピボット)」いう考え方です。

本書のPoint
■検証による学びとは?
検証による学びとは、ビジネスの要となる仮説を検証する中で「顧客が本当に望んでいるモノとは何か」を学び、それを元に製品を改善していこうという考え方です。スタートアップが行うことはすべて検証による学びを得るための「実験」だと考え、そこで得た学びを製品に生かしていくのです。

 例えばあるビジネスアイデアを思いついて、すぐにでも作れる状況にあるとしても、「それが作れたら顧客は買ってくれるのか?」「どれくらいの顧客が買ってくれるのか?」が検証されていない状態で大量の予算と人材を投資してしまうと、結果的に仮説が間違っていた場合、それまでの苦労の多くがムダに終わってしまいます。ビジネスの要となる仮説を検証するということは、つまり「この製品を作るべきか」という問いの答えを得ることです。このとき必要なのは「完璧な仕上がりで美しく、どこに出しても恥ずかしくない製品」ではありません。なぜなら、誰が顧客なのかが分からなければ、何が完璧であるかも、何が品質なのかも分からないからです。必要なのは、「必要最低限の機能を整えた製品(Minimum Viable Product:MVP)」です。
■ MVPの制作
必要最低限の機能を整えた製品(MVP)をリリースして顧客からフィードバックを得ることで、そもそもその製品にニーズはあるのかを検証します。検証すべきは「価値仮説」と「成長仮説」。この2つの仮説を検証するために「必要最低限な」機能を整えた製品を作るということです。
 価値仮説とは「顧客が使うようになったとき、製品やサービスが本当に価値を提供できるか否かを判断するもの」、成長仮説とは「新しい顧客が製品やサービスをどうとらえるかを判断するもの」です。例えばフェイスブックがサービススタートしたとき、まだ一部の大学でしか使えなかったものの、アクティブユーザーがサイトで過ごす時間は極めて高く、ユーザーの半数以上が毎日アクセスしていたと言います。これは顧客がフェイスブックに価値を感じていたことを示すのに十分な数値であり、「価値仮説」についての裏付けがあったと言えます。また、そこから大学キャンパスへの普及速度も驚異的に速く、2004年2月4日にサービス開始してから、2月中にはハーバードの学生の4分の3近くが使うほどだったことから、「成長仮説」も検証済みだったと言えます。

 この2つの仮説を検証することが、スタートアップの成功率を高めるために大いに役立ちます。
 「必要最低限の機能を整えた製品(MVP)」は、必ずしも実際にリリースされる製品の形を整えている必要はありません。 たとえばDropboxの場合、実際に利用できる製品を公開する前に、「どんな製品なのかをわかりやすく伝える動画」を制作し、「開発中の製品を顧客が欲しがるか」を検証しました。 この動画が「MVP」の役割を果たし、多くの顧客が実際に予約するという形で、「優れた体験を提供できれば顧客は我々の製品を使ってみてくれるのか」という問いに対する裏付けがとれたというわけです。動画を見て顧客が予約するかというシンプルな形式で検証を実行した。


 従来の製品開発は長い時間をかけてじっくりと開発し、完璧な製品をめざすが、MVPは目的が学びのプロセスを始めることであってそれを終えることではない。プロトタイプやコンセプト検証と違い、MVPは製品デザインや技術的な問題を解決するためのものではない。基礎となる事業仮説を検証するためのものなのだ。

※悪いMVPと良いMVP

悪いMVPは、初期からプロダクトとして利用できません。 悪いMVPの1は、タイヤだけです。客はタイヤを利用して移動できません。タイヤだけでは、製品と言えません。 良いMVPとは、初期から製品として利用できます。上記の図1のスケボーは、 客の速く移動したい というニーズを、少し満たせます。 つまりスケボーは製品と言えます。 そして、スケボーを使った人から、スケボーを使った感想やフィードバックを得られます。
■革新会計
スタートアップアップにおいて、検証による学びを実現できているかどうか、事業が前進しているかどうかを確認するには、従来の会計手法と異なる方法が必要です。 なぜなら、不確実性が高いスタートアップにおいて一般的な管理会計を当てはめてみても、事業の将来性を正しく見抜くことはできないからです。

 例えば赤字が続けばその事業はうまくいっていないと評価すべきなのか、製品が計画通り作られていれば(それが求められていない機能であっても)順調な進捗と言っていいのかのように。
 ここで必要なのが「革新会計(イノベーションアカウンティング)」です。 革新会計を活用すると、「持続可能な事業にする方法を学んでいる」と客観的に証明することができます。まずは、ビジネスの要となる仮説から定量的な財務モデルを作り、将来的に成功したときどのような事業となるかを推測します。その理想状態に向けて「成長の原動力」となるポイントについて、適切な学びを得て、その学びを効果的に利用できているかどうかを評価の基準とするのです。

革新会計を簡単に言えば既存のビジネスモデルの事業計画を立てるときは売上から分解してビジネスに整合した基準を設定、チューニング、ピポット判断を行うこと。
革新会計には3つの機能があると述べています。
【ベースラインの設定】MVPをユーザーが利用したら、コンバージョンレートや定着率などの現実のデータが手に入ります。これがベースラインとなります。
【エンジンのチューニング】ベースラインが設定されたとします。そのベースラインが仮説よりも低かったとしたらどうするでしょうか。よりいい数値になるようチューニングをしますよね。このチューニングによって数値が改善されればより多くの学びが得られます。
【方向転換か辛抱か】もしチューニングで成果が出なかったら、失敗だと判断しなければなりません。どんなにがんばってもベースライン以上の学びが得られないようであれば、よもやどんな現実歪曲フィールドがあろうが、現実を直視するしかないので、方向転換という選択肢をとることになるでしょう。
■方向転換(ピポット)
革新会計によって理想状態に向かって進めていないと判断された場合、現状の戦略を根本的に見直して、新しい戦略的仮説へと方向転換する必要が出てきます。これを方向転換(ピボット)と言います。
 当初の戦略から方向転換するか、維持するかはリーダーにとって極めて難しい決断ですが、持続的な成長を実現させるためには避けては通れない問題です。方向転換するならすべてのプロセスをやり直す必要があり。新たなベースラインを設定し、そこからもう一度エンジンをチューニングしていかなければならないのだ。ピボットの型は一つではありません。例えば、それまで機能の一つだと考えていた点に集中する「ズームイン型ピボット」や、製品の機能を変えることなくオーディエンスを変える「顧客セグメント型ピボット」など、本書では10のパターンが紹介されています。

【ピボットの10個の型】
Zoom-in pivot(ズームイン・ピボット)
製品の機能の一部を主要プロダクトに変える手法のことです。

Zoom-out pivot(ズームアウト・ピボット)
顧客ニーズに応じて機能を強化・拡大し、製品全体の主要機能に変える手法のことです。

Customer segment pivot(顧客セグメント・ピボット)
ターゲットとするユーザーが定まった時に、顧客層を変える手法のことです。

Customer need pivot(顧客ニーズ・ピボット)
顧客自体を見直すことによって、自社製品やサービスの課題を再検証する手法のことです。

Platform pivot(プラットフォーム・ピボット)
アプリケーションをプラットフォーム化したり、プラットフォームを放棄する手法のことです。

Business architecture pivot(ビジネスモデル・ピボット)
収益の構造を「高い利益率で少量売る」という戦略から、「低い利益率で大量に売る」に変える手法のことです。

Value capture pivot(収益モデル・ピボット)
広告による収益やサブスクリプションなどといったように、定期収入の発生源を変える手法のことです。

Engine of growth pivot(成長エンジン・ピボット)
成長エンジンの考え方を変える手法のことです。

Channel pivot(チャネル・ピボット)
販売経路や流通経路を変える手法のことです。

Technology pivot(テクノロジー・ピボット)
新たなテクノロジーを駆使して、従来の課題解決にアプローチする手法のことです。

【ピボットピラミッド】
事業においてどこをピボットするか、視覚的にガイドするのが「ピボットピラミッド」です。
ピボットピラミッドは下記5項目が階層関係にあるとし、ステージごとにアプローチ方法が異なるとしています。

   顧客(Customers)のピボット
   課題(Problem)のピボット
   ソリューション(Solution)のピボット
   テクノロジー(Tech)のピボット
   グロース(Growth)のピボット


 著者は、ピボットこそ「リーン・スタートアップ方式の肝だ」と言います。なぜなら、ピボットがあるからこそ、失敗から立ち直ることができるからです。
 
■アントレプレナーとスタートアップの違いは?
アントレプレナーとは?
リーンスタートアップ方式では、アントレプレナーとイントレプレナーとを区別しません。スタートアップに関わる人全体を指すこととして、企業・規模・セクター・発展段階によっては区別しません。

【スタートアップとは?】
ではスタートアップとは何ぞやという話ですが、本書ではスタートアップを「とてつもなく不思議な状態で新しい製品やサービスを創り出さなければならない【人的組織】」と定義しています。製品ではなく、組織というのがポイントですね。
■ 挑戦の要 となる価値仮説と成長仮説の違いは?
リーンスタートアップ方式は科学的実験なので、まずは起点となる仮説を置きます。全ての始まりであり基礎になる仮説です。本書では2つの仮説「価値仮説」「成長仮説」の2つが説明されています。

【価値仮説とは?】
その製品やサービスが、顧客に本当に価値を提供できるのかどうかをとう仮説です。インドの洗濯サービスの事例で言うところの「洗濯にお金を払う人がいるか」です。

【成長仮説とは?】
最初の利用者(アーリーアダプター)からどのような広がり方をするのかという仮説です。成長エンジンと結びつきます。
本書の目次

第1部 ビジョン(スタート 定義 学び ほか)
 第1章 スタート
 第2章 定義
 第3章 学び
 第4章 実験
第2部 舵取り(始動 構築・検証 計測 ほか)
 第5章 始動
 第6章 構築・検証
 第7章 計測
 第8章 方向転換(あるいは辛抱)
第3部 スピードアップ(バッチサイズ 成長 順応 ほか)
 第9章 バッチサイズ
 第10章 成長
 第11章 順応
 第12章 イノベーション
 第13章 エピローグ――無駄にするな
 第14章 活動に参加しよう

著者・出版

エリック・リース(Eric Ries)

アントレプレナーとして「スタートアップの教訓(Startup Lessons Learned)」というブログを執筆。New Context社ゼネラルパートナー。彼にとって3社目の起業であるIMVUには、共同創業者として、また、CTO(最高技術責任者)として参画した。最近はビジネス関連のイベントで講演することが多く、さまざまなスタートアップや大企業、ベンチャーキャピタルに事業戦略や製品戦略のアドバイスを提供している。ハーバード・ビジネス・スクールのアントレプレナー・イン・レジデンスでもある。


井口耕二(いのくち・こうじ)
1959年生まれ。東京大学工学部卒、米国オハイオ州立大学大学院修士課程修了。大手石油会社勤務を経て、1998年に技術・実務翻訳者として独立。翻訳活動のかたわら、プロ翻訳者の情報交換サイト、翻訳フォーラムを友人と共同で主宰するなど多方面で活躍している。
主な訳書に『スティーブ・ジョブズ I・II』(講談社)、『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン――人々を惹きつける18の法則』(日経BP社)、『アップルを創った怪物―――もうひとりの創業者、ウォズニアック自伝』(ダイヤモンド社)などがある。


伊藤 穰一(いとう・じょういち)
MIT(米マサチューセッツ工科大学)メディアラボ所長。デジタルガレージ共同創業者で取締役。Creative Commons会長。内閣官房IT戦略本部本部員、慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科非常勤講師ほか、FireFox開発のMozilla Foundationをはじめとする非営利団体のボードメンバーも務める。エンジェル投資家として、シリコンバレー地域を中心に複数のインターネット事業への投資、事業育成にも携わり、これまでに Twitter、Six Apart、Wikia、Flickr、Last.fm、Kickstarterなどの創業や事業展開を支援。2008年ビジネスウィーク誌にて「ネット上で最も影響力のある世界の25人」に選出された。

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