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社会を変えたい人のためのソーシャルビジネス入門 (PHP新書) 駒崎弘樹

Book Summary
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レビュー

グローバル化が進み、環境問題や格差、性差別、教育、介護など数々の社会問題が世界的 に深刻化している。先進国として発展し続けてきた日本も例外ではなく、子どもの貧困や少子高齢化による介護、ジェンダー問題などさまざまな社会問題が存在する。従来、こうした 社会問題の解決に携わるのは国際機関や政府、非営利団体が中心的であった。しかし、近年 では企業や自治体などの取り組みも増え、企業の社会的責任を指し、環境・社会・ガバナンス要素を考慮した投資を指す ESG (Environment・Social・Government)投資など、社会問題解決に向けた新たなシステムや 取り組みが広がっている。こうした社会問題解決に向けた新たな取り組みの一つとして注 目されているのが、ビジネスを手段として社会問題解決を目指すソーシャルビジネスである。 ソーシャルビジネスの特徴を踏まえながら理由を解き明かし、そのうえで取り組むときのポイントをご紹介されている一冊です。

なぜ今ソーシャルビジネスが注目されているのか?
ソーシャルビジネスの広まりは、ユヌス博士が2006年にノーベル平和賞を受賞した影響も大きいでしょう。日本でも、2007年に経済産業省の下にソーシャルビジネス研究会が立ち上げられ、調査や議論が始まりました。また、2011年の東日本大震災が、ソーシャルビジネスの議論を加速させ、実際にソーシャルビジネスが増える契機になったとも言えます。こうした社会的な流れに加え、2015年に国連によって提唱されたSDGs(持続可能な開発目標)の広がりも、ソーシャルビジネスの認知度や、その必要性を高めている大きな要素のひとつです。

著者はどんな人?
病児保育を行う認定NPO法人「フローレンス」を2004年にたちあげ、日本の社会起業家の若き旗手としてニューズウィーク「世界を変える社会起業家100人」にも選ばれた著者。本書では、起業当初から現在に至るまで、10年以上にわたる著者の軌跡を初めて具体的に明かしています。社会課題を解決するための「仕組みづくり」はどうしたらいいのか。お金はどうやって回していくか。人を集めるには、行政とうまく付き合う方法……など、超実践的なノウハウ満載。本書を読めば「新しい社会貢献」の実際がすべてわかる!NPOからソーシャルベンチャー、ボランティアまで、「社会を変えたい」と願うすべての人、必読です。

本書のPoint
ソーシャルビジネスとは?
3 つの要件を満たすものとして いる。現在解決がもとめられる社会的課題に取り組むことを事業活動のミッションとする 「社会性」、ミッションをビジネスの形に表し継続的に事業活動を進めていく「事業性」、新 しい社会的商品・サービスや、それを提供するための仕組みを開発したり活用したりする 「革新性」の 3 つである。


営利企業や非営利組織など法人形態を問わず、上記の 3 つの要 件を満たしているかどうかが、日本で浸透しているソーシャルビジネスの主な捉え方であ る(図1)。

また、経済産業省において地域の社会課題を解決するコミュニティビジネスと ソーシャルビジネスのちがいについては、「コミュニティビジネスについては、活動領域や 解決すべき社会的課題について一定の地理的範囲が存在するが、ソーシャルビジネスにつ いては、こうした制約が存在しない」と整理されている(図 2)。


<ソーシャルビジネスとほかの活動との違い >

株式会社・合同会社・一般社団法人・非営利法人などさまざまで、事業者が事業目的にあわせて選んでいるのが実情と言えます。
ソーシャルビジネスのマネタイズモデル

ソーシャルビジネスの収入構造は、事業収入行政からの収入(助成、補助)、その他の財源(増資、寄附、会費)の 3 つに分類される。 大きく 5 つのマネタイズモデル(寄付モデル、対価モデル、対価寄付混合モデル、受益者労働 モデル、そして行政事業委託モデル)がある。


社会課題に対する共感可能性が高く、受益者の支払い能力が低い場合、寄付が有効なマ ネタイズ手法となる(寄付モデル)。また、共感可能性が低いが受益者の支払い能力が高 い場合、受益者から直接対価を得る対価モデルを採用することができる。対価モデルの中 でも純粋に対価をもらう形を準対価型、医療保険収入や介護保険収入など対価の一部を受 益者が負担する形を準市場利用型に分けることができる。そして、対価モデルと寄付モデ ルを両立した、対価寄付混合モデルも存在する。さらに、受益者に支払い能力が十分ない 場合は、受益者を労働力に変え価値を生み出す受益者労働モデルもある。共感可能性、支 払い能力に関係しない事業は行政事業委託モデルが適切なモデルとなる。このように、ソ ーシャルビジネスの収入構造として選択できる形態が様々あるため、解決する社会課題 や、価値対象者である受益者の支払い能力によって、どのようにマネタイズするかを検討 する必要がある。
ソーシャルビジネスに取り組むときの3つのポイント
1. 自分を知る、自分を大切にする
ソーシャルビジネスに取り組むにあたって基礎となるのは、「自分を知る」「自分を大切にする」ことです。これはソーシャルビジネスの父と言われるユヌス博士が、ソーシャルビジネスの原則の最後に加えている「Do it with Joy(楽しむこと)」にもつながります。社会課題の多くは、一筋縄で解決できるものではありません。だからこそ、多くの人々が長い歴史の中で、さまざまな課題解決の方法を考え、取り組んできています。しかし、課題が解決されるには時間がかかり、それが解決しても、ほかに課題が生み出されることもあります。自分は必死に頑張っているのに、一向に課題が解決していかない状況に疲れ、バーンアウトしてしまう起業家たちも少なくありません。その意味でも、ソーシャルビジネスに取り組むにあたって「なぜ自分はその課題に取り組むのか」「その課題に取り組んでいることを楽しめているか(自分自身のウェルビーイングはどうか)」がとても重要となります。

2. 冷静な思考と熱い想いを持つ
ソーシャルビジネスに取り組むにあたって、自分自身の中にある熱い想いは非常に重要である一方、やみくもに想いだけで突っ走ると、社会課題の構造を分析し、どのようなアプローチで課題に取り組むべきかを見いだすことが難しくなります。冷静な思考で現実を見つめ、必要な情報収集や分析をしたうえで、どのようなビジネスモデルを構築するか検討することが必要です。これは、社会性と経済性の両立が求められるソーシャルビジネスが、利益を追求するだけのビジネスを立ち上げるよりも、ハードルが高いからこそ、大切なポイントです。

3. 「私の課題」を「みんなにとっての課題」にする
オバマ元米大統領の選挙活動を支えたとされるマーシャル・ガンツ博士は、人々の心を動かし社会運動を起こしていく手法として「コミュニティ・オーガナイジング」を提唱しています。この根本には、「私の課題をみんなの課題にする」というメッセージがあります。ソーシャルビジネスを立ち上げるとき、必要なリソース(ヒト・モノ・カネ)を本人が持っているとは限りません。リソースが限られているからこそ、自分の取り組みたい課題が、いかに目の前にいる相手や周囲にいる人々にとっても重要で、なぜ今取り組むべき課題なのかを伝え、説得し、仲間になってもらうことが大切になってきます。自分には知識も、人脈も、お金もないという理由で諦めるのではなく、まずは自分の想いを相手に伝え、周りにいる人たちと共に課題に取り組み始めることは、ソーシャルビジネスの重要な一歩です。
本書の目次

序章 なぜ、いまソーシャルビジネス入門なのか?

第1章 ソーシャルビジネス入門を始める前に考えておくべきこと

第2章 ソーシャルビジネス入門の「仕組みづくり」(事業プラン)をどうするか

第3章 さあ、ソーシャルビジネス入門を始動させよう

第4章 準備は整った。大海へ漕ぎ出そう!

第5章 事業を大きくし、より大きな社会変革を目指す

第6章 「制度化」という社会変革の方法

著者・出版

駒崎弘樹 ( こまざき ひろき )



1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、「地域の力によって病児保育問題を解決し、子育てと仕事を両立できる社会をつくりたい」と考え、2004年にNPO法人フローレンスを設立。日本初の「共済型・訪問型」の病児保育サービスを首都圏で開始、共働きやひとり親の子育て家庭をサポートする。

2010年からは待機児童問題の解決のため、空き住戸を使った「おうち保育園」を展開。「おうち保育園」モデルは、2012年度より「小規模認可保育所」として、政府の子ども子育て新制度において制度化され、全国に広がった。 2014年には、障害児保育が極度に不足する問題を解決するため、医療的ケアが必要な子ども達を中心とした障害児を専門的に預かる「障害児保育園ヘレン」を東京都杉並区に開園。2015年4月から、医療的ケア児の家においてマンツーマンで保育を行う「障害児訪問保育アニー」をスタート。


著書に『「社会を変える」を仕事にする: 社会起業家という生き方』 (ちくま文庫)、『働き方革命 』(ちくま新書)、『「社会を変える」お金の使い方』(英治出版)『社会を変えたい人のためのソーシャルビジネス入門 』(PHP新書)。翻訳書に「あなたには夢がある 」(英治出版)。


一男一女の父であり、子どもの誕生時にはそれぞれ2か月の育児休業を取得。

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