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論語と算盤 (角川文庫)渋沢栄一

Book Summary
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レビュー

渋沢栄一は、幕末から明治・大正・昭和までを生き抜いた起業家です。 明治時代には、大蔵省を経て、起業家として約480社の会社設立に関わり、「日本資本主義の父」と呼ばれています。 みずほ銀行や王子製紙、帝国ホテル、キリンビール、アサヒビール、サッポロビール、JR東日本、東急電鉄、日経新聞、東京電力、東京ガス、東京海上ホールディングス株式会社など、数々の大企業の設立には彼が関わっています。
また同時期に、約600の教育機関 ・社会公共事業の支援にも関わり続けました。医療であれば、日本赤十字社、聖路加国際病院など、教育機関であれば、一橋大学、日本女子大学、早稲田大学などがあります。そして、70歳でビジネス界を引退しますが、その後当時悪化していた日中関係や日米関係の改善のための民間外交にも尽力し、二度もノーベル平和賞候補に選ばれるという経歴も持っています。 2024年度に一万円紙幣の肖像 となることでも有名です。

そんな渋沢栄一が、創業当初から掲げている思想が「論語と算盤」です。論語から人格形成を学び、利益追求を意味する算盤から、資本主義の利益主義一辺倒にならず、バランスをとることが大切であると学ぶことを意味します。

「論語」は、中国春秋時代の思想家だった孔子と弟子の会話を記したもので、孔子の名言集といってもいいでしょう。人としての物事の考え方や道徳などについて述べているもので、聞けば知っている言葉がいくつもあると思います。たとえば、「故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知る」は、「温故知新」という四字成語で広く知られています。一方、「算盤」は商売のことを指しています。そもそも商売は、他のライバルを出し抜いたり、さまざまな駆け引きが行われたりする、まさに「生き馬の目を抜く」世界ですが、だからといって何をしてもいいというわけではありません。

渋沢栄一は、『論語と算盤』を通じて、「道義を伴った利益を追求しなさい」と言ったのです。それと同時に、「公益を大事にせよ」とも言っています。

本書のPoint 
■渋沢栄一が人格形成(道徳)のベースに論語(儒教)を選んだ理由
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さて、孔夫子(孔子)の人となりは、一言にして言えば常識の非常に発達したる円満の人というが適評ならん。 ・・・ 何となれば吾人は非凡の釈迦や耶蘇たること能わざるまでも、平凡の発達したる孔子たり得べからざる理なければなり。 ただ勉めて倦まざるに在るのみ。要するに孔子は万事に精通して円満無碍の人である。 すなわち常識の非常に暢達した方である。
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すなわち、孔子は「偉大な常識人」だと言うことです。論語は、平凡な人でも手が届くからこそ、政治や哲学、宗教的な理念というわけではなく、経済的な言語やロジックとして汎用的に表現でき、個人の身を修めるといった日常的な実践指導も可能であると着目したからと言える。
智・情・意
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「智、情、意」の三者が各々権衡を保ち、平等に発達したものが完全の常識だろうと考える
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「智」:知恵・知識(ものごとを知り、考えたり判断する能力)
「情」:情愛(心で感じる喜びや悲しみ)
「意」:意志(何かをしようとするときの元となる心持ち)

つまりここでいう「常識」とは、強固な意志に聡明な知恵を加え、これを情愛で調節しながらバランスを保ちながら発達させたものであるということです。何か一つだけ抜きん出るのではなく、平等に保たれている必要があります。 意志ある者が智恵を身に着け、その上で情愛をもって分けていくことで初めて全き人になれると述べてます。

(おまけ)
渋沢栄一は、秀吉と家康の比較して、秀吉は意志と智恵があったが情がなかったから短命幕府であり、一方、徳川家康は意志と智恵と情をあわせもった全き人だったと考えているようです。
視・観・察
「視る」:その人の行動をみる
「観る」:その人の行動の動機をみる
「察る」:その人が何に満足しているのかをみる

ここまで観察すると、その人の人間性がみえてくるということです。 これは、渋沢栄一が使った人間観察法で、視(行動・)、観(行動の理由・動機)、察(何に喜びを得ているか)の3つの視点で観察することで 一見すると外見は良さそうだが、その人との本心がどこにあるか見抜く。
経済と道徳という矛盾を抱える
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現代の人の多くは、ただ成功とか失敗とかいうことだけを眼中に置いて、 それよりもっと大切な「天地の道理」を見ていない 。 他人のやったことが評判がよいから、これを真似してかすめ取ってやろうと考え、 横合いから成果を奪い取ろうとする”悪意の競争”をしてはならない 。一方、 金儲けを品の悪いことのように考えるのは、根本的に間違っている。 しかし儲けることに熱中しすぎると、品が悪くなるのもたしかである。 金儲けにも品位を忘れぬようにしたい 。
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金儲けは悪いことではないが、金儲けに執着してしまうと、どんなことをしてでも金儲けをするということが目的になってしまいます。日本の経済もそのような方向に向かっているように感じたからこそ、渋沢栄一は経済と道徳の融合が必要だ 。その融合した状態こそ、道徳(論語)と算盤(経済)という矛盾を自分の中に同居させている状態となる。
論語と算盤は現代のSDGs
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現代の人の多くは、ただ成功とか失敗とかいうことだけを眼中に置いて、 それよりももっと大切な「天地の道理」を見ていない。 人は、人としてなすべきことの達成を心がけ、自分の責任を果たして、 それに満足していかなければならない。
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成功こそが目的だととしていた現代において、成功や失敗というのは残りカスにすぎないと言います。つまり過程のひとつに過ぎず、道議に従い、自分がなすべきことに全力を尽くすことが一番大切であるということです。社会の基本的な道徳を基盤の上で築いた富でなければ、長続きはしないし、価値なんてありません。この「論語と算盤」つまりは「道徳と経済」は、時代が変わっても、不変の人間と人間社会の本質なのです。

現在ではSDGs「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の考えもあり、株式利益のためだけの経営ではなく、社会のため経営にシフトしてきています。
本書の目次

目次
処世と信条
立志と学問
常識と習慣
仁義と富貴
理想と迷信
人格と修養
算盤と権利
実業と士道
教育と情詛
成敗と運命

著者・出版

渋沢栄一(しぶさわえいいち)


天保11年2月13日(西暦:1840年3月16日)、現在の埼玉県深谷市血洗島の農家に生まれました。家業の畑作、藍玉の製造・販売、養蚕を手伝う一方、幼い頃から父に学問の手解きを受け、従兄弟の尾高惇忠から本格的に「論語」などを学びます。

「尊王攘夷」思想の影響を受けた栄一や従兄たちは、高崎城乗っ取りの計画を立てましたが中止し、京都へ向かいます。郷里を離れた栄一は一橋慶喜に仕えることになり、一橋家の家政の改善などに実力を発揮し、次第に認められていきます。 栄一は27歳の時、15代将軍となった徳川慶喜の実弟・後の水戸藩主、徳川昭武に随行しパリの万国博覧会を見学するほか欧州諸国の実情を見聞し、先進諸国の社会の内情に広く通ずることができました。明治維新となり欧州から帰国した栄一は、「商法会所」を静岡に設立、その後明治政府に招かれ大蔵省の一員として新しい国づくりに深く関わります。  1873(明治6)年に大蔵省を辞した後、栄一は一民間経済人として活動しました。そのスタートは「第一国立銀行」の総監役(後に頭取)でした。 栄一は第一国立銀行を拠点に、株式会社組織による企業の創設・育成に力を入れ、また、「道徳経済合一説」を説き続け、生涯に約500もの企業に関わったといわれています。 栄一は、約600の教育機関・社会公共事業の支援並びに民間外交に尽力し、多くの人々に惜しまれながら1931(昭和6)年11月11日、91歳の生涯を閉じました。

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