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スタートアップ―起業の実践論(技術評論社)伊藤紀行

Book Summary
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レビュー

政府は2022年を「スタートアップ創出元年」と位置付け、スタートアップへの投資額を5年で10倍を超える10兆円規模とすることを目指す「スタートアップ育成5か年計画」を策定しました。より多くのスタートアップ創出、規模拡大のための支援も展開される計画であり、スタートアップへの関心が高まってきていると言えます。しかし、起業し事業を拡大させていくためには、各ステージにおいてすべきこと・考えるべきことが多岐に渡り、容易なことはでありません。確かに容易ではないのは確かですが、それでも ハードルを低くしてくれるのが本書なのです。起業されたい方の一助となる一冊だというのが読み終わった際の感想です。

・スタートアップを成功させるためには、何が必要なのか?
・何をすべきで、逆に何に気をつけるべきなのか?

日々、多くの起業家に身近に接しているベンチャーキャピタリストである著者の視点からこれらの問いに答える成功の原則を紐解いたのが本書。リアルな実践例として上場・非上場の起業家の実際のエピソードを軸にしながら、複数の業界・企業を横断的に見ていく中で得られた客観的な観点を織り交ぜて考察されています。メディアでの取材に応じてくれた70名を超える起業家の皆さんの実体験が、本書の土台になっており非常に読みやすい一冊です。

本書のPoint
■課題を発見する方法

起業家の事例を調べていくと、多種多様な課題を発見し起業へ結び付けているが、よくあるパターンは以下の3つである。

1.自分自身が感じた課題を元に起業する
2.得意領域の課題で起業する
3.海外事例を研究、日本にはまだ解決策のない課題で起業する
アナロジー思考で、事業のアイデアを創出する
事象を応用・組み合わせるアナロジー思考は、弁護士ドットコムのアイデア創出に最も大きく貢献した思考といえるかもしれない。これは特定の課題や解決策が他の領域でも応用できないかと考えることです。 弁護士ドットコムの場合、引越し業者の比較を弁護士の比較に応用できないかと考えたことが発端になっています。この思考は応用するアイデアの源が多ければ多いほど、アイデア創出に有効です。
アナロジー思考とは、違う事柄のなかから双方の類似点を見つけて、解決策を見いだす思考法です。
■ なぜ自分がやるのか(Why Me)?なぜ今やるか(Why Now)?を言語化する。

なぜ自分がやるのか(Why Me)?
⇒投資検討する際に、経営者および経営チームの経歴や実績、その家庭で得られた強みを多角的な視点で確認される

なぜ今やるか(Why Now)?
⇒市場が伸びるか、そしてその市場で勝てるかを掘り下げる。適切なタイミングをとらえてアクセル全開にすることが大切である。
“競合はいません”は危険信号
起業家のピッチの中で、
「競合はいません」
「我々が唯一無二です」
というフレーズが出てくると、投資家の頭の中で、〝これはまずいパターンかもしれない〞と警報が鳴り響いているケースがあります。競合がいない=魅力がない市場の可能性があるのはもちろん、自分たちの隣接する領域まで含めて潜在的な競合を認識できていない場合もあります。 あるいは仮に今は本当にいなくても、事業の成長とともに他企業の参入はぐっと増加するケースは枚挙にいとまがありません。事業の成長過程において競合が存在しないことはほとんどありえない。これが現実ではないでしょうか。 このように激しい競争の中で勝者と敗者を分けるものは何でしょうか。その1つの回答は、起業家自身が得意な領域で勝負することでないでしょうか。強いWillだけではなく、強いCanがある場所で勝負することで勝率が高められるはずです。
■ いち早くプロダクトを世にだし、PMFを実現
自分が確信を持てる課題と事業アイデアを思い立ったら、後は誰よりも早く実行に移すことが、成功への近道になりうる。 自分が圧倒的に確信を持てる課題、そしてそれに伴う事業アイデアを見つけよう、ということです。そのために、日頃の中の自分自身の課題に着目してみるのはどうでしょうか。そしてその課題に対し、問いを立てる思考、アナロジー思考、俯瞰思考の視点で向き合おってみましょう。結果、確信を持てるアイデアを見つけたら、そこからはスピード・スピード・スピード!
楽天の三木谷社長の「スピード・スピード・スピード」 のモットーは皆さんご存じの方も多いかと思います。こと新しい事業の創出については、タイミングが非常に重要です。自身が課題を認識できた瞬間から最速で動く、そんな心がけが大事になってきそうです。
■海外事例はすぐ調べて、日本での実現性を確認
気になる海外の事例があれば、今この瞬間にも調べられます。海外では実現されているのに、日本にまだない事業がみつかるかもしれません。さらに、日本にまだないのであれば、それはなぜか調べてみてはいかがでしょう。
皆さんの取り組む領域で、海外では実現されていて、日本にはまだない事業はありますか?
その事業は本当に日本で成り立つでしょうか。まだ実現していないのはなぜでしょうか?
日本で実現するための障害を、どのように乗り越えられるでしょうか?
他社ではなく、なぜそれを皆さんが実現できるのでしょうか?
 
上記にこたえうる良い仮説があれば、取り組んでみる価値があるかもしれません。
■ ビジネスモデル検証の、5つの基準
顧客へのヒアリングを重ねることで深い顧客理解をえられたとすると、次のステップはビジネスモデルの構築です。ビジネスモデルの妥当性を検証するにあたり、どんな視点で評価していくのがよいのでしょうか。

1つ目は、「市場の規模と成長性」
市場の規模と成長性を見て、シェアを取り切った時の事業規模や、シェアを取り切るまでの時間軸を見定めています。時間の経過とともに人件費等各種費用は継続的にかかってくるので、特に資金制約が強いスタートアップでは事業成長の時間軸が大切な視点となります。さらに事業規模がバリュエーションを規定し、調達額へも影響を及ぼすため、市場規模から事業規模・バリュエーション・調達額の幅が大体見えてきます。
 
2つ目が、「ユーザーペイン(課題)とソリューション(解決策)」
ユーザーペインは、日本語でいうところの顧客の課題の深さです。そして、ソリューションはそれに対する解決策の妥当性。よくいわれるように、誰の何を解決しようとしているのか、と言い換えてもよいかもしれません。
ビジネスアイデア生成の際に陥りがちな罠が“Nice to have”ではあるが、“Need to have”ではないアイデアです。すなわち、ユーザーペインの深さに欠けるか、ソリューションの必然性が低い状態といえるでしょう。結果、想定ユーザーに課金してもらえない事業ができあがってしまうことがあります。
 
3つ目は、「ビジネスのスキーム」
こちらは、自社でビジネス機能を内製化するのか、それとも外部と連携しながら実行するのか、という論点です。社内リソースが常に逼迫しているスタートアップにとって、社外リソースにレバレッジをかけて成長していく観点は不可欠となります(自社で全て内省化して取り組むと、時間的にも資金的にもなかなか厳しい!)。
他者と共栄できるスキームを構築し、持続的な成長を目指すことも1つの方策ではないでしょうか。バリューチェーンの中で得意な領域を「選ぶ」、「省く」というアプローチはスタートアップにとって有効です(他にも、「束ねる」、「加える」などもあります)。
その際注意すべきなのが、何を外部に公開して連携していき、逆に何をクローズドに内製化するのかという点です(「オープン・クローズ戦略」と呼ばれています)。自社の強みとなる優位性まで外部へ公開してしまい、気づけば優位性だけ抜かれて連携を打ち切られるリスクがあるため注意が必要です。
 
4つ目は、「収益構造とお金の回収エンジン」
これは、どのような仕組みで稼ぐのかの点です。課金形態、金額、コスト構造を見誤ると、売上は伸びても永遠に黒字化しない事業ができあがってしまうケースが往々にしてあり、これは非常に厳しい状態です。アーリーステージのベンチャーで時々見られるパターンでは、交渉力が低い故、破格の値段でサービスを販売してしまうケースがあります
。時間が経過しても、なかなか値上げできず、いつまでもエコノミクスが成立していない事業ができあがってしまうのは、本当にもったいないと思います。プライシングやコスト構造は中長期の目線でプランニングしないと、伸びているようで利益のでない事業になってしまうため、慎重に検証することをおすすめしたいです。
 
最後の基準は、「集客とマーケティング」
どうやって拡大していくかの論点です。どの時期に、どのようなデザインやコピーライティングで、どのチャネルで、いくら予算をかけて、誰に向けてマーケティングを打っていくのか。ここでもやはり「顧客理解」が肝になります。
■経営者の成否を分ける、“ビジョンの強さ”
ビジネスの要諦は、
「何に向かって」
「どんなチームが」
「どのように考え行動するか」
に尽きると語られています。
 
「何に向かって」は目の前のお客様と将来のビジョンの両極に向かって、「どんなチームが」は困難な時に団結するチーム、「どのように考え行動するか」はPDCAを高速回転させる。これらは、言うなれば事業を上手く回すためのエンジンなのだとおっしゃっています。そして、そのエンジンのガソリンは何でしょうか。それは最終的に情熱であり、執念なのだと語られています。起業家の素養として究極的に1つ挙げるなら、「本物の情熱=執念が強いこと」。これに尽きるということなのです。
本書の目次

Stage:1 課題発見
~事業の核となる、アイデアを見つける~

Stage:2 仮説検証 
~アイデアを磨き、事業に昇華する~

Stage:3 資金調達 
~どういうポイントを押さえ、誰から調達するのか~

Stage:4 マーケティングと集客 
~戦略に沿った施策とブランディング~

Stage:5 起業の原体験とビジョン 
~ミッション/バリュー/ビジョンが会社の体幹をつくる~

Stage:6 採用と組織づくり 
~非連続な成長のための戦略とメンバー配置~

Stage:7 事業成長の機会とリスク 
~成長実現のために頭に入れておきたい主要論点~

Stage:8 IPOを実現するために 
~上場のプロセスと事業拡張~

著者・出版

伊藤紀行(いとう のりゆき)

DIMENSION株式会社ビジネスプロデューサー 
早稲田大学政治経済学部卒業、グロービス経営大学院経営学修士課程(MBA, 英語)修了。株式会社ドリームインキュベータからDIMENSIONファンドMBOに参画、国内のスタートアップへの投資・分析、上場に向けた経営支援等に従事。主な出資支援先はカバー、スローガン、BABY JOB、バイオフィリア、RiceWine、SISI、他 全十数社。ビジネススクールにて、「ベンチャー戦略プラン二ング」「ビジネス・アナリティクス」等も担当。


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