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流浪の月 (東京創元社) 凪良ゆう

Book Summary
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レビュー

凪良ゆうの2020年本屋大賞も受賞した本作のあらすじを紹介します。

『流浪の月』は、家内更紗さらさと佐伯文というふたりの男女の、運命的な出会いと関係の変化を描く物語です。主人公の更紗は、肩肘張らない生活を謳歌し、周囲の人々からは“浮世離れしている”と評される両親に育てられた少女。更紗は愛する両親のもとで自由気ままな毎日を送っていましたが、小学生のとき、父親の湊が病気により突然命を落としたことをきっかけに、生活が一変してしまいます。母親が傷心のあまり更紗を置いて家を出てしまったために、伯母の家に預けられることとなったのです。

奔放な両親とは違い、真面目で常識を重んじる伯母一家に戸惑いつつも、新しい暮らしに慣れようと努力する更紗。しかし、伯母のひとり息子である孝弘が夜な夜な更紗の部屋に入り、性的な接触をしてくるようになったことで、更紗の心は深く傷つきます。孝弘のことを誰にも相談できずひとり悩んでいた更紗が、ある日、公園で出会ったのが大学生の文でした。文は毎日、公園のベンチに座ってぼんやりと小学生たちを眺めていることから、更紗の同級生たちに“ロリコン”と呼ばれていました。しかし、それを知りつつも更紗は、文に助けを求めます。文の切れ長の目に父親・湊の面影を見た更紗は、「帰らないの?」と話しかけてきた文に「帰りたくないの」と返事をし、彼の家についていくのでした。

よからぬ噂とは裏腹に、文は更紗を大切に扱い、甲斐甲斐しく衣食住の世話をしてくれます。「帰りたくないなら、うちにいればいい」という文の言葉に甘え、何日も彼の家に滞在する更紗でしたが、ある日、自分が「誘拐された」と報道されているニュース映像を目にしてしまいます。それから2ヶ月後、ふたりで出かけた動物園で文は「誘拐犯」として通報され、その場で逮捕されます。泣きながら文の連行に抵抗する更紗の映像は周囲の通行人たちによって撮影され、ネット上に拡散されてしまうのでした。

更紗はその後、児童養護施設に引き取られ、文とは長らく会えないままに成人します。20代半ばになり、更紗はファミリーレストランでアルバイトをしながら、恋人の亮と一緒に暮らしていました。亮から結婚の話をされ、それを受けるべきか悩んでいた矢先、更紗はアルバイト先の店のほど近くにできた喫茶店で、偶然にも文と再会します。喫茶店のマスターとして店で働く文が、10年以上前に世間を震撼させた事件の「誘拐犯」であるとは誰にも気づかれていない様子。客として来店した更紗の顔を見ても、文が声をかけてくることはありませんでした。突然の再会に動揺しながらも、支配的な側面を持つ亮との関係に違和感を覚えていた更紗は、かつてのように文と親しく話したいと切望するようになります。誰にも気づかれないよう、ひっそりと文の喫茶店に通いはじめた更紗。世間から「被害者」と「加害者」だと思われている更紗と文の関係は、再会をきっかけに、徐々に変化していきます。

『流浪の月』の作者・凪良ゆうは、長らくボーイズラブの世界で活躍してきた作家です。ボーイズラブ作品時代から一貫して、世間からは必ずしも是とされない関係にあるふたりの強い結びつきや、“ふつう”に反抗しようとする人々の姿を描いてきました。 繋がりのカタチは様々であることを改めて考えさせられる小説です。

本書のPoint
著者からのメッセージ

■ 世間の“正しさ”や“常識”に縛られない生き方でもよい
世間が“ふつう”とする正しさや常識に抗おうとする人物たちが書かれている 。 周囲から“やばい”と評されるような人物であっても、自分が好きだと思ったらその感覚を信じるという更紗の姿勢は、小学校の同級生たちから“ロリコン”と噂されていた文に対しても同じです。更紗は文の誠実さを信じたからこそ、危険を顧みずに家についていきます。もともとは真面目で世俗に疎い人物だった文は、そんな更紗の自由さ・真っ直ぐさの影響を受け、しだいに世間の“ふつう”から逸れる選択をすることを恐れなくなっていきます。世間や社会の常識に抗い、自分の心が信じる選択だけをし続ける主人公の姿は、読者の目にも痛快で頼もしく映るはずです。

■辺境に立たされた人も自分の人生に向き合い必死に生きている
本作には、社会の辺境と言うべき場所に立たされている人物たちが、数多く登場します。 たとえば、更紗の職場の同僚である安西さんという女性は、ひとり娘・梨花を育てるシングルマザーです。 また大人になった文が一時期交際していた女性・谷さんも、病気で胸を切除したことをきっかけに自信を失い、心を病んで、心療内科に通っています。 彼女たちのように、社会のなかで弱い立場に置かれている人や、やさしさ故に自分を責め、心を病んでしまいがちな人たちが本作には登場します。彼ら・彼女らが社会的な承認を得たり、大きく心を回復させるという綺麗事ではなく、 “社会の辺境”にいることは変わらないまま、更紗と文のように、それでもなんとか自分自身の居場所を見つける──という姿が描かれているのが、本作の真摯な魅力です。

著者・出版

【凪良ゆう(なぎら・ゆう)】

京都市在住。2006年にBL作品にてデビューし、代表作に21年に連続TVドラマ化された「美しい彼」シリーズなど多数。17年非BL作品である『神さまのビオトープ』(講談社タイガ)を刊行し高い支持を得る。19年に『流浪の月』と『わたしの美しい庭』を刊行。20年『流浪の月』で本屋大賞を受賞。同作は22年5月に実写映画が公開された。20年刊行の『滅びの前のシャングリラ』で2年連続本屋大賞ノミネート。その他の著書に『汝、星のごとく』など。

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