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坊っちゃん (新潮文庫) 夏目漱石

Book Summary
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レビュー

本作品は、江戸時代から明治時代へと時代が移り変わり、文明開化によって引き起こされた価値観の変化や社会の歪みが登場人物を通してユーモラスに描かれています。主人公の坊っちゃん、下女の清、同僚の山嵐など作中で「正義」として描かれている人物には維新の際、幕府側についた土地の出身という共通点があり、義理人情を大切にする思想をもっていますが、「悪」として描かれている教頭は、明治時代に設立された教育制度である帝国大学の出身で、権力や履歴を重視する思想をもっています。

作中での教頭と主人公達の対立は「江戸時代の思想」と「明治時代の思想」の対立でもあると思います。結果として主人公達は教頭をこらしめる事には成功しますが、学校を去り、権力者である教頭は学校に残りました。映画やドラマのように勧善懲悪とはいかず、正義は勝つとは言えない結末に現実味があります。

坊っちゃんと教頭の対立を江戸時代と明治時代、義理と権力などの対比と絡めながら描くユーモア溢れるお話です。勧善懲悪とはいきませんが、それでも「坊っちゃん」は最後まで「坊っちゃん」として自身の心情を曲げる事無く生きました。私は、坊ちゃんの生き方から、正義とは周りに振り回される人生でなく自分の人生を生きることだと改めて思うことができました。

【物語に登場する人物】
坊っちゃん(ぼっちゃん)
無鉄砲な性格で、煽られたらひくことができない性格。短気な性格であるため、家族との折り合いが悪い。

清(きよ)
坊っちゃんの家で働いている下女だが、坊っちゃんのことは好きでかわいがっている。

山嵐(やまあらし)
数学の教師。身体が大きく正義感が強いまっすぐな男。坊っちゃんからの信頼も得ている。

赤シャツ(あかしゃつ)
教頭。いつも赤いシャツを着ている嫌なやつ。やり口はいつもとても卑怯である。

野だいこ(のだいこ)
赤シャツの腰巾着のような男。

うらなり(うらなり)
内気で気が弱い性格であるため、婚約者であったマドンナを赤シャツに奪われた。

マドンナ(まどんな)
うらなりの婚約者だったが、今は赤シャツと交際している。

狸(たぬき)
坊っちゃんの学校の校長。

本書のPoint
あらすじ
親譲りの無鉄砲で子供の頃から乱暴ばかりしている少年「坊っちゃん」は、両親と兄から疎まれていた。母親が亡くなったとき、お母さんが死んだのはお前のせいだと兄から責められる。しかし下女の清だけは、彼の曲がったことを許さない性格を気に入り可愛がってくれていた。父親と死別後、坊っちゃんは譲り受けた財産で東京の物理学校に入学する。卒業後、彼は四国の旧制中学校に数学の教師として赴任しないかと提案され、二つ返事でこれを引き受けた。見送りに来た清と別れ、四国の学校に着いた彼は、校長の狸や教頭の赤シャツ、英語教師のうらなり、美術教師の野だいこ、数学主任の山嵐らと出会う。東京育ちの坊っちゃんは、四国の田舎の風土やそこで出会う人々が気に入らなかった。坊っちゃんは天ぷらそばを4杯頼んだことなどを生徒たちから冷やかされ、宿直室に大量のイナゴを入れられるという嫌がらせを受ける。生徒たちの処分を求めるが、いやみな態度をとる教頭の「赤シャツ」や同僚の「野だいこ」らは彼に責任を転嫁しようとした。しかしこれに、盟友である「山嵐」が筋を通すために異議を唱える。その後坊っちゃんは、「赤シャツ」が英語教師の「うらなり」の婚約者を奪った上、うらなりを邪魔に思って左遷したことを知る。坊っちゃんと山嵐はこの件に対する怒りで意気投合するが、赤シャツの陰謀で山嵐が辞職に追い込まれてしまう。理不尽極まりない赤シャツの不祥事を暴くため、ふたりは監視を始める。そしてついに、芸者遊びから帰ってきた赤シャツと野だいこを発見し取り押さえる。問い詰めてもしらを切る彼らをふたりは殴り、天誅を加えた。その勢いで辞職した坊っちゃんは東京へ戻り、鉄道会社の技手となった。清を下女として雇い、彼女が死ぬまで一緒に暮らした。
■学びのポイント
誠実さと正直さの重要性: 坊ちゃんのキャラクターは非常に正直で直接的です。彼は自分の信念を曲げず、不正や不公平に対して立ち向かいます。これは、どんな状況でも誠実で正直であることの重要性を教えています。
社会の偏見に挑戦する: 坊ちゃんは、彼が教師として勤める学校や町の住人たちからの偏見や誤解に直面します。彼の経験は、社会的な偏見やステレオタイプに挑戦し、個人をその本質で評価することの大切さを示しています。
自己成長と自己認識: 物語を通じて、坊ちゃんは個人として成長し、自己認識を深めます。彼は困難や対立を乗り越えながら、自分自身と他人について学びます。
友情と忠誠: 物語には、坊ちゃんと彼の同僚である赤シャツとの間の友情が描かれています。彼らの関係は、信頼と忠誠の重要性を浮き彫りにします。
ユーモアの価値: この小説は、ユーモアを通じて多くの社会的および個人的問題を軽減しています。ユーモアの力は、困難な状況を乗り越えるのに役立つことを示しています。
著者・出版

夏目漱石 (なつめ そうせき) 1867-1916

日本の英文学者・小説家。本名は夏目金之助。近代日本文学における文豪の一人。1984年から2007年まで発行されていた千円札の肖像でもあった。1893年東京帝国大学英文科を卒業後、1895年松山中学教諭、1897年旧制第五高等学校(熊本)教授を経て、1900年にイギリスに留学。帰国後、東京帝大等で英文学を講義。1905年に「吾輩は猫である」により作家としてデビューした。その後、創作活動に専念するため、1907年に朝日新聞に入社する。代表作に「坊っちゃん」「草枕」「虞美人草」「三四郎」「それから」「門」「明暗」そして本書「こゝろ」などがある。1916年、50歳で亡くなる。高名な人物ではあるが、人生自体は不遇が多く、作品では「孤独」や「生きにくさ」といった感情が扱われることが多い。若い頃に患った肺結核、英国留学時の神経衰弱、東京帝大での教師としての不評(小泉八雲の後任だった)、そしてその後の胃潰瘍等を経て、本作品は夏目の晩年に書かれている。

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