スポンサーリンク

1Q84(新潮社)村上春樹

Book Summary
スポンサーリンク
レビュー

1Q84年──私はこの新しい世界をそのように呼ぶことにしよう、青豆はそう決めた。Qはquestion markのQだ。疑問を背負ったもの。彼女は歩きながら一人で肯いた。好もうが好むまいが、私は今この「1Q84年」に身を置いている。私の知っていた1984年はもうどこにも存在しない。……ヤナーチェックの『シンフォニエッタ』に導かれて、主人公・青豆と天吾の不思議な物語がはじまる。

本書ではかつてのオウム真理教を連想させる新興宗教団体が登場します。団体の成立過程や時代性などのディテールが色濃く反映され、そのリアリティに身震いするほど。
主人公である青豆と天吾はパラレルワールドである「1Q84年」に入り込み、宗教団体を絡めてストーリーは展開されます。推理小説のように構成されていますが、本書は主人公2人の壮大な恋愛物語。2人の行く末も気になりますが、本書で最も考えさせられるのは「生きるとは何か」ということ。いろいろな方面から刺激を受ける村上ワールドをお楽しみください。

<1Q84の主要登場人物>
青豆:本作の主人公。ストレッチのプロ。裏の顔を持つ。少女時代「証人会」の信者
天吾:青豆同様本作の主人公。予備校の数学教師のかたわら小説を書いている。
深田絵里子:女子高校生。通称ふかえり。「空気さなぎ」の原作者。美少女。
深田保:ふかえりの父親。謎多き人物。

本書のPoint
【起】『1Q84』のあらすじ①
1984年から1Q84へ: 青豆は仕事に向かう途中、タクシーで流れる音楽が1926年作曲ヤナーチェックのシンフォニエッタでだと気付きますが、なぜ自分がその曲の詳細を知っているか疑問でした。 高速道路で渋滞に巻き込まれ、タクシー運転手の勧めで道路脇の非常階段から脱出します。
階段を降りながら、高校時代の親友の大塚環と二人で行った旅行中、遊びで寝たことを鮮明に思い返します。 青豆は仕事現場に直行する途中で警察官の制服と拳銃が以前と違うことに気が付き、それがいつ頃変わったのか強く疑問に感じます。 そして現場ホテルに到着し、滞在する男をアイスピックを使った特殊な方法で殺害します。 彼は常習的に妻へ暴行を加えてきた男でした。
そんなろくでもない人間の殺害が青豆の裏の仕事で、普段はスポーツクラブで筋トレなどのレッスンを受け持っていました。 仕事後、青豆はバーで行きずりの男性と酒を飲み一夜を過ごします。 これはある時から青豆の習慣となっており、行動の意味は青豆にも明確に説明できないのでした。 青豆のいた1984年の世界とパラレルワールドのように存在するその世界を、1Q84と名付けます。 そして、非常階段で感じた不思議な感覚を思い返し、そこで世界が転換したと思えてならないのでした。

一方、天吾は編集者の小松から新しい仕事を持ちかけられ、話の途中発作に襲われます。 天吾は時々、母が父でない男に乳首を吸わせている記憶がフラッシュバックし、立ちくらみのような症状に苦しめられるのです。 仕事は「空気さなぎ」という作品を芥川賞を取らせるために加筆修正する、という公にできない内容でした。 発作はそれを聞いた後に起こったのでした。 「空気さなぎ」は女子高生のふかえりが書いた小説で、物語は非凡で風変わりなものの、文章は読みづらく荒削りでした。 天吾は家出以来会っていない父を思い出します。 NHKの集金人だった父は、日曜日には決まって幼い天吾を集金に連れ回し、それは天吾にとって苦痛でした。 「空気さなぎ」はふかえりの話をエビスノの子アザミがタイプして完成した作品で、リトル・ピープルにその内容を聞かれないよう注意した、と信じがたい事実を語ります。 話を聞き終えたた天吾は「空気さなぎ」の内容はふかえりの実体験だと想定し、作中のリトル・ピープルの意味を考えます。
それが実在してもしなくても、「空気さなぎ」を修正することでその意図が明確になっていくのではと考え、エビスノもそれに賛同します。
【承】『 1Q84 』のあらすじ②
二つの月とリトル・ピープルの存在。 青豆が老婦人と初めて話した時のことなどを思い出しながらホテルのラウンジで飲んでいると、見知らぬ女性に声をかけられます。 あゆみと名乗る彼女は警察官で、チームを組んで男に声をかけないかと誘います。 充実した夜を一緒に過ごした二人はその後も会うようになります。 友だちと言える人と時間を過ごしたのは環以来でした。
仕事はなんと「さきがけ」のリーダーを殺害するというもので、コミューン内での幼い少女へのレイプが発覚したためだと言うのです。 セーフハウスに保護された十歳の少女はつばさと言い、何も言わずうつろな目をしていました。 子宮を破壊された状態だと知った青豆が思わず誰にやられたのかと聞くと、「リトル・ピープル」と答えるのみでした。 リトル・ピープルが何なのか、全く分かりませんでした。 その夜、寝ているつばさの口から五人のリトル・ピープルが出現し、空中から取り出した白い糸で白い物体を大きくしていく、という作業がひっそりと行われたのでした。 「さきがけ」はクリーンな宗教団体ではないと踏んだ青豆は、警察官のあゆみに調査を頼みます。 あゆみは引き受け、「さきがけ」の謎の資金ルート、内部で生活する子ども達は成長していくにつれ口数が減りうつろな表情になり学校に通わなくなっていくことが多いことなどが徐々に明らかになります。

一方、エビスノを訪ねた帰り道の天吾は、小学生の同級生だった女の子を思い出します。
宗教団体「証人会」の信者の家に生まれた彼女は、その特殊な生活から皆から無視されていましたが、一度天吾は困っている彼女を反射的に助けたことがありました。 ある日彼女と天吾が教室にたまたま二人きりになった時、彼女に手を握られたことがあり、その情景は忘れたことがありませんでした。 天吾は自分が彼女を求めていることに気が付きます。  世間では「空気さなぎ」は新人賞を取り、ベストセラーとなっていました。 もしもこのベストセラー騒ぎで両親が出てくると強制的にコミューンに連れ戻される危険があるのではと天吾は懸念します。 エビスノは両親もふかえり関係で世間の注目を集めることは望んでいないとし、また注目こそがメディアをやがて「さきがけ」の内部に向けさせるきっかけとなるとし、そうなることを望んでいました。 それに対しふかえりはリトル・ピープルがやってきたからだと言い、エビスノはリトル・ピープルが一体何なのかを「空気さなぎ」によってつかめるのではないかとも言います。
天吾は「空気さなぎ」に登場する架空の存在のはずのそれが、現実に作用していることと、「さきがけ」の実態の怪しさに、この件は危険だと感じ始めます。 しばらくして、ふかえりが行方不明になったと小松から連絡が入ります。
【転】『 1Q84 』のあらすじ③
「空気さなぎ」の力とリーダー殺害: 青豆が「柳屋敷」を訪ねると老婦人は思い詰めた様子で、つばさが部屋からいなくなった、と言います。 「さきがけ」のリーダーがこれまでレイプした少女はつばさを含め四人まで特定した老婦人は、さらに驚くべきことを口にします。 彼は一番最初に、自分の実の娘を犯したと言うのでした。 リーダー殺害が成功した場合仕事を辞め遠くへ行き、顔と名前を変える必要がありました。 失敗すれば惨殺されるかもしれません。
青豆は覚悟を決め、タマルに拳銃の調達を頼みます。そんなある日あゆみが殺されたニュースが飛び込みます。 あゆみはおそらく行きずりの男にホテルの一室で手錠で腕を縛られ、首を絞められました。 青豆は大塚環が死んだ時以来の涙を流し、あゆみをもっと受け入れてあげれば良かったのだと悔います。 その後、タマルからリーダー殺害の手はずが整ったと連絡が入ります。
青豆はリーダーの筋肉マッサージを受け持ったトレーナーとして彼らと待ち合わせし、その途中で密かに殺害するという手はずでした。 リーダーと青豆はホテルの一室で向き合い、青豆は真実を知ります。 リーダーは一見して普通ではない雰囲気をまとい、人の心を読み、世界の状況を把握していました。 1Q84にはリトル・ピープルが存在し、彼らにより彼とふかえりは普通ではない能力を手にし、二人は交わり、彼らの代理人になった流れを語ります。 青豆は戸惑いつつも、手はず通りに筋肉マッサージを施します。 通常の人には耐えられない痛みにも身動きせず、それは普段彼が感じている痛みの激しさを物語っていました。 そして、青豆の目的を読み、殺されることを自ら望みます。 殺すことが本当に正しいのか悩む青豆に、小説「空気さなぎ」にはリトル・ピープルに反抗する力があると言い、自分を殺すことは天吾の命を助けると青豆を説得します。
しかしその代わりに青豆はこの世界から消えなければならなくなるだろうと伝えられます。
天吾への愛を優先させた青豆は、ついに殺害を実行します。

一方、天吾のもとに牛河と名乗る怪しい男の訪問が相次いでいました。 男は自らをリサーチャーだと言い、天吾とふかえりの関係性をつかんでいました。 そこで天吾に作家活動のための助成金を渡すと何度もセールスし、天吾は何度も断ります。 天吾はふと青豆のことを考えました。 それから、天吾は自分が青豆に対して何もしなかったことを悔やむことになります。 成長してからもその想いは消えず、一瞬でも青豆と触れ合った時間と心の震えを、ほかのどんな女性にも感じることはできませんでした。 同じ頃、ガールフレンドと連絡が途絶え、安否不明となります。
それについて牛河に問うと、自分たちは何もしておらず、天吾とふかえりの二人が病原体のような役割を果たしているのだと告げます。 助成金を受け取ればそれはなくなると考えられましたが、それも状況が把握できない天吾にとって信じられないことでした。 後日、失踪中だったふかえりから電話が入り、天吾のアパートにかくまわれることになります。 ふかえりはエビスノが用意してくれた隠れ家に身を潜めていたようでした。 ふかえりはリトル・ピープルが騒いでおり、異変が起きようとしていると言いました。
【結】『 1Q84 』のあらすじ④
青豆と天吾の接近: リーダー殺害後逃走に成功した青豆は、老婦人のはからいで高円寺のアパートに身を潜めます。 そこは天吾の住むアパートのすぐ近くでした。 青豆はアパートに用意されていた小説「空気さなぎ」を読みます。
その夜、青豆が考え事のために外を眺めている時、近所の公園に天吾の姿を目撃します。 青豆は悩んだ末にそこに向かいますが、到着した時すでに天吾は立ち去った後でした。 それでも深く感激し、あることを決心します。 自分が1Q84にやってきた通路だと思われる高速道路の非常階段に行き、1984年に行けるのか確かめに行くことでした。 しかし、そこにはもうすでに非常階段は消えており、やるべきことは全て終えたと感じ拳銃を取り出します。 青豆は拳銃を口に突っ込み、引き金に力を入れました。

一方、リーダーの死と同時刻、天吾とふかえりは交わります。 ふかえりはそれが儀式的なものだと言い、天吾は気が付くと裸になり、なぜか身体は麻痺状態になっていました。 天吾はこの世界で異変が起きていることを確信し、混乱しつつも受け入れざるを得ません。 天吾は出版社に電話をしますが、小松は会社を体調不良で突然休み、音信不通と知らされます。 そんなことはこれまでの小松にはあり得ない出来事でした。 ただ事ではないとふかえりに話しますが、ふかえりは何も言いませんでした。 青豆に会わなければならないと強く感じた天吾は、青豆の行方を探し始めます。 しかし電話帳を調べ、小学校の名簿を見ても、結局行方はつかめません。 ふかえりに相談すると、青豆はすぐ近くにいるものの探し回っても会えず、青豆の方から天吾を見つけると予言します。 天吾はその意味を考え、もう一度青豆に手を握られた情景を思い浮かべます。 何度も考えるうち、窓の外には昼間にしては大きく、はっきり見える月が見えたことを思い出します。
そこにケアセンターから父が昏睡状態にあると連絡が入ります。 翌日、父のいる施設に向かい、父にこれまでの人生と自分について一方的に語ります。 話しかけることが容体を良くするという理由もありましたが、ほとんど自分のためでした。 ドアを開けてベッドを見ると、父が寝ていたそこに白い大きなまゆの形の何かが出現していたのです。 天吾はそれが空気さなぎだと気付き、中には自分の分身が入っていると予測し、中を見る決意を固めます。

月と同じように、天吾が描写した空気さなぎそのままの姿でした。 恐る恐る中をのぞくと、中には天吾ではなく、少女の姿の青豆が目をつむり安らかな表情で横たわっていました。 その手にはぬくもりがあり、 青豆の感情のパッケージのぬくもりと重ね合わせます。 時を経て、天吾は青豆がくれたパッケージの中身を見ることができたように感じました。 空気さなぎがゆっくり消えていった後にもぬくもりは消えませんでした。 天吾はこの新しい世界を生き抜き、青豆を見つけ出そうと誓ったのでした。
著者・出版

村上春樹
ムラカミ・ハルキ


1949(昭和24)年、京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。1979年『風の歌を聴け』(群像新人文学賞)でデビュー。主な長編小説に、『羊をめぐる冒険』(野間文芸新人賞)、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(谷崎潤一郎賞)、『ノルウェイの森』、『国境の南、太陽の西』、『ねじまき鳥クロニクル』(読売文学賞)、『海辺のカフカ』、『アフターダーク』、『1Q84』(毎日出版文化賞)、『騎士団長殺し』がある。『神の子どもたちはみな踊る』、『東京奇譚集』などの短編小説集、エッセイ集、紀行文、翻訳書など著書多数。海外での文学賞受賞も多く、2006(平成18)年フランツ・カフカ賞、フランク・オコナー国際短編賞、2009年エルサレム賞、2011年カタルーニャ国際賞、2016年ハンス・クリスチャン・アンデルセン文学賞を受賞。

コメント

タイトルとURLをコピーしました