スポンサーリンク

正欲(新潮文庫)朝井リョウ

Book Summary
スポンサーリンク
レビュー

生き延びるために 本当に大切なものとは、何なのだろう。小説家としても一人の人間としても、明らかに大きなターニングポイントとなる作品です。
――朝井リョウ

”読む前の自分には戻れない”という前評判は間違ってなかったと思う。誰しもが何かしらの価値観を変えてくれる一冊だ。これまでは、自分が想像できる”多様性”だけ礼賛して、秩序整えた気になっていた自分に気づかせてくれる、そしてあたらな価値観を読み終わった時に形成してくれる。

<登場人物>
息子が不登校になった検事・啓喜。
初めての恋に気づく女子大生・八重子。
ひとつの秘密を抱える契約社員・夏月。

<あらすじ>
ある人の事故死をきっかけに、それぞれの人生が重なり合う。 だがその繋がりは、”多様性を尊重する時代"にとって、ひどく不都合なものだった。

本書のPoint
あらすじ

寺井啓喜は、息子が配信する動画サイトが、幼児わいせつ動画にあたる疑いで停止されたことを知ります。風船割や公園での水遊びなど、視聴者のリクエストに応え投稿していたことで起こったことでした。 「世の中には理解出来ない、社会のバグ、悪魔が存在するんだぞ」。妻の由美を一方的に責める啓喜に、由美は「普通に生きていけないことはバグなの?」と、自分と息子を理解しようともしてくれない夫に、家をでる覚悟を決めます。

佳道は、いつも閲覧する水の動画にコメントを寄せてくる常連、フジワラサトルに興味を持ちます。この名前を使うということは、自分たちと同じ「水フェチ」に違いない。
「自分たちが苦しんでいたように彼も一人で苦しんでいなければいいな」。その思いからコンタクトを取ることにしました。 フジワラサトルのハンドルネームを使用していたのは、大学生の諸橋大也でした。八重子から男性恐怖症の苦しみをぶつけられ告白された大也は、はじめ同情を求めているのかと怪訝さをあらわにします。 しかし、触れられても大丈夫な男性に出会えたことが奇跡のように嬉しくもあり、大事だからこそ相手を理解したいという切実な気持ちを必死に訴える八重子のことは、理解できる気がしました。 「自分も今、繋がれそうな人がいるんだ」との大也の言葉に「良かった。ひとりじゃなくて」と、安堵をみせる八重子でした。 コンタクトを取り会った佳道と大也は、やはり同じ動画サイトで知り合ったコバセと名乗る、もうひとりの水フェチも交え、一緒に水の動画を撮ることになりました。

公園に集まった3人は、居合わせた子供たちと一緒に水遊びの動画を撮ります。大人が楽しそうに水遊びする姿はどのように映ったのでしょうか。 そして、コバセには水フェチ以外にも他の嗜好があったのです。水に濡れた服が好きと言っていたコバセ、本名・矢田部陽平は、小児性愛者でした。 ある日、夏月が帰って来ると、家の前にパトカーが止まっています。家から、警察官と一緒に姿を現した佳道が連行されて行きます。
児童買春で逮捕された男性グループを担当することになった啓喜は、どうにも理解に苦しむ供述に頭を悩ませていました。 矢田部の家からは証拠となる映像等が押収されており犯罪は間違いないものの、あとの2人は「ただ水が好きなだけだ」と言っています。とんでもない言い訳だ。 大学生の諸橋大也は、「はなから自分は理解する側の人間だと思っているんだろ」と、諦めにも似た言動をみせます。会社員の佐々木佳道は、「今まで同じ気持ちを分かち合ったことがなかった。それは罪なのか」と問い、「明日を生きて見たいと思えたなら、それを知ってみたかった」と、悲しい表情をしていました。
啓喜は、佳道の妻である佐々木夏月と面会をすることになりました。部屋に入ってきた女性をみて驚きます。何時ぞやに商店街で会った女性でした。
「あり得ないと思いますが、夫婦は水に特別な感情をお持ちですか?」。啓喜の問いかけに、夏月は静かに答えます。
「必死に生きてきたものを、あり得ないって片付けられたことはありますか? あなたが信じなくても、ここにこういう人間はいます」。
そして、調停中なので伝言は出来ないという啓喜に、夏月は言います。「私はいなくならないから、と伝えてください」。そこには、啓喜には知りようもない深い繋がりがありました。
著者・出版

朝井 リョウ

出生地: 岐阜県 不破郡
生年月日: 1989年5月31日 (年齢 34歳)
学歴: 岐阜県立大垣北高等学校、 早稲田大学文化構想学部
受賞歴: 直木三十五賞
2009年『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。
2013年『何者』で第148回直木賞を受賞。
2014年『世界地図の下書き』で第29回坪田譲治文学賞を受賞。
2021年『正欲』で第34回柴田錬三郎賞を受賞。

コメント

タイトルとURLをコピーしました