本サイトで紹介する本に関する理解度チェック問題になります。
問題を解きながら、本の概要を理解できるように、
問題以上に解説に力を入れておりますので、是非活用ください。
[3つのポイント]
・行軍の際はには地形をよく活用せよ |
・敵軍の動きには前兆がある |
・規律保持は将軍の責任である |
[サマリ]
戦場における行軍について述べられています。第九の行軍篇から孫子の記述は戦場の具体的な状況を想定した内容となっており、「孫子」が単に戦略レベルでの概論を述べているのではないということが分かります。この篇でいう「行軍」は軍の進め方の他に軍の意図の見抜き方をも含んだ、戦場での軍の用い方といった意味合があります。行軍篇では、将軍という中間管理職の立場で軍の用い方について説明しています。
本章は、行軍に当たっての注意事項を細かく述べている部分となっている。大切なことは、物事にはセオリーがあり、原理原則を知っておくことの重要性である。時と場合、その場、その時に応じて、敵もあるわけだから、何でもセオリー通り、マニュアル通りに行かないこともあるだろう。
原理原則を知っているからこそ、その場、その時に合わせて応用が利くのであり、その意思決定のスピードが速くなるのだ。企業経営においても、新しい経営理論や最新ツールや用語が飛び交うが、そうした新しい考え方、道具を活用するためには、原理原則、セオリーをよく理解しておかなければならない。だから2500年前の孫子の兵法も役に立つことになるわけだが、何年経っても、何世紀経っても、人と組織の原理原則はあまり変わらないということだろう。孫子は、行軍する際には、兵を低い所ではなく高い所に置き、日陰ではなく陽の当たる場所を選び、衛生面や健康面を考慮して疾病を防ぐことが重要であり、こうした兵への配慮が必勝体制を築くのだと説いた。2500年も前に、兵士に対する配慮を説いたことに感服するが、これは別に兵士を甘やかせるためではなく、勝つためである。兵の士気が上がり、気力、体力が充実していなければ、勝てるものも勝てない。そのために必要な配慮だ。「兵の利」なのだ。
本章では、将軍の立場で行軍する際の心構えについても述べている。
・敵軍の細かな動きを観察して、その裏にある意図や真実をつかめ
・敵の動きを「見える化」し、その裏にある真実、実体、実情をつかみ取れ
・現場の些細な変化や予兆を見逃すな
・敵と味方の兵力を把握し、軍隊を運用せよ
上記を企業に置き換えると、現代の企業が取り組まなければならないことが、経営の「見える化」だ。「可視化経営」と言っても良い。企業行動、経営活動とは、社員個々人の活動の総和だから、経営が見えるためには、全社員がどういう活動をしていて、現場でどのような情報をつかんでいるのかを共有しなければならない。
多くの企業では結果の「見える化」が重要だ。営業マンの売上グラフなどがその典型だが、正しい処遇をするためにもプロセスの「見える化」をしなければならない。部下の努力や頑張りを見守ってやる姿勢がリーダに求められるのだ。軍が乱れるのは、将軍の威厳がないからだと孫子も指摘している。どうしたら威厳を保つことができるか。それは正しいことは正しいと評価し、間違ったことは間違っていると処断する判断基準の確かさから生まれるものであろう。ここが常に一定で、ブレない。だから信頼できるし、安心して指示命令に従うこともできる。この評価、判断軸がブレて、感情に流されたり、その場の思いつきだったり、ムラがあるようだと、部下をいくら甘やかしてはならない。本章は、人の上に立つ者は気をつけたいポイントが詰まっている。
読み下し文 | 現代語訳 |
孫子曰く、およそ軍を処き敵を相るに、山を越ゆれば谷に依り、生を視て高きに処り、隆きに戦うに登ることなかれ。これ山に処るの軍なり。水を絶れば必ず水に遠ざかり、客、水を絶りて来たらば、これを水の内に迎うるなく、半ば済らしめてこれを撃つは利あり。戦わんと欲する者は、水に附きて客を迎うることなかれ。生を視て高きに処り、水流を迎うることなかれ。これ水上に処るの軍なり。斥沢を絶ゆれば、ただ亟かに去って留まることなかれ。もし軍を斥沢の中に交うれば、必ず水草に依りて衆樹を背にせよ。これ斥沢に処るの軍なり。平陸には易きに処りて高きを右背にし、死を前にして生を後にせよ。これ平陸に処るの軍なり。およそこの四軍の利は、黄帝の四帝に勝ちしゆえんなり。 | 孫子はいう。軍隊を置くところと敵情の観察とについて述べる。山越えするときは谷に沿って行き、高みを見つけては高地にいり、上にいる敵にはたちむかってはならない。川を渡ったら必ずその川から遠ざかり、敵が川を渡ってせめてきたときにはそれを川の中で向かい打つことはしないで、半分を渡らせてしまってから攻撃する。川のそばで敵を向かい打ってはならない。高みをみつけて高地にいり、下流にいて上流からの敵にあたってはならない。沼地はできるだけ早くとおりすぎ、沼地で戦うときは森林を背後にする。平地では高地を背後に低い地形を前にして高みを後ろにせよ。およそこうした山・川・沼地・平地の4種の軍隊の利益こそ勝利の要因だ。 |
およそ軍は高きを好みて下きを悪み、陽を貴びて陰を賎しむ。生を養いて実に処り、軍に百疾なし。これを必勝と謂う。丘陵隄防には必ずその陽に処りてこれを右背にす。これ兵の利、地の助けなり。上に雨ふりて水沫至らば、渉らんと欲する者は、その定まるを待て。
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軍を留めるには高地をよしてし低地を嫌い、日当たりがよいところを貴んで、日当たりが悪い場所を避け、草や水の多いところを占める。丘陵や堤防など日当たりのよい東南にいてその丘陵や堤防がはいごになるようにする。これが戦争の利益になることで、地形の援護である。 |
およそ地に絶澗、天井、天牢、天羅、天陥、天隙あらば、必ず亟かにこれを去りて近づくことなかれ。われはこれに遠ざかり、敵はこれに近づかせ、われはこれを迎え、敵はこれに背にせしめよ。軍行に険阻、溝井、葭葦、山林、翳薈あらば、必ず謹んでこれを覆索せよ。これ伏姦の処る所なり。
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地形に絶壁や谷間があるときは、そこを早く立ち去り近づいてはならない。敵にはそこに近づくように仕向ける。険しい地形の時は慎重にくりかえして捜索せよ。これらは伏兵や偵察があいる場所である。 |
敵近くして静かなるはその険を恃めばなり。遠くして戦いを挑むは、人の進むを欲するなり。その居る所の易なるは、利なればなり。衆樹の動くは、来たるなり。衆草の障多きは、疑なり。鳥の起つは、伏なり。獣の駭くは、覆なり。塵高くして鋭きは、車の来たるなり。卑くして広きは、徒の来たるなり。散じて条達するは、樵採するなり。少なくして往来するは、軍を営むなり。
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敵が近くにいて静かなのは、その地形の険しさを頼みとしており、敵が遠くにいながら合戦をしかけるのはこちらの進撃をのぞんでいるときである。 |
辞卑くして備えを益すは、進むなり。辞疆くして進駆するは、退くなり。軽車まず出でてその側に居るは、陳するなり。約なくして和を請うは、謀るなり。奔走して兵車を陳ぬるは、期するなり。半進半退するは、誘うなり。
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敵の軍使のことばがへりくだっていて守備を増強しているようなら進撃の準備である。ことばつきが強硬で進行してくるかまえをするのは退却の準備である。 |
杖つきて立つは、飢うるなり。汲みてまず飲むは、渇するなり。利を見て進まざるは、労るるなり。鳥の集まるは、虚しきなり。夜呼ぶは、恐るるなり。軍の擾るるは、将の重からざるなり。旌旗の動くは、乱るるなり。吏の怒るは、倦みたるなり。馬を粟して肉食するは、軍に糧なきなり。缻を懸けてその舎に返らざるは、窮寇なり。諄諄翕翕として、徐に人と言うは、衆を失うなり。しばしば賞するは、窘しむなり。しばしば罰するは、困しむなり。先に暴にして後にその衆を畏るるは、不精の至りなり。来たりて委謝するは、休息を欲するなり。兵怒りて相迎え、久しくして合せず、また相去らざるは、必ず謹みてこれを察せよ。
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杖に頼ってたっているのは飢えているのである。水に及んで真っ先にのむというのは、飲料が少ない証拠である。利益を認めながら進撃しないのは疲労しているからである。 |
兵は多きを益とするにあらざるなり。ただ武進することなく、もって力を併せて敵を料るに足らば、人を取らんのみ。それただ慮りなくして敵を易る者は、必ず人に擒にせらる。卒、いまだ親附せざるにしかもこれを罰すれば、すなわち服せず。服せざればすなわち用い難きなり。卒すでに親附せるにしかも罰行なわれざれば、すなわち用うべからざるなり。ゆえにこれに令するに文をもってし、これを斉うるに武をもってす。これを必取と謂う。令、素より行なわれて、もってその民を教うれば、すなわち民服す。令、素より行なわれずして、もってその民を教うれば、すなわち民服せず。令、素より行なわるる者は、衆と相得るなり。
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戦争は兵が多いほどよいというものではない。戦力を集中して敵情を考え図っていくなら十分に勝利をおさめることができる。考えもしないで敵をあなどっていては必ず捕虜にされる。
兵士たちが親しみなついていないので懲罰を行うと彼らは心腹せず働かせにくい。兵士が親しみなついているのに懲罰を行わないのはこれも悪い。だから恩徳でなつけて、刑罰で統制するバランスこそ必勝のポイントである。 |
〇第一 始計篇
(戦う前に心得ておくべきこと、準備しておくべきこと)
〇第二 作戦篇
(戦争準備計画についての心得)
〇第三 謀攻篇
(武力ではなく「はかりごと」の重要性)
〇第四 軍形篇
(攻撃・守備、それぞれの態勢のこと)
〇第五 兵勢篇
(戦う前に整えるべき態勢)
〇第六 虚実篇
(「虚」とはすきのある状態、「実」は充実した状態の制御方法)
〇第七 軍争篇
(戦場において、軍をどうやって動かす方法)
〇第八 九変篇
(戦場で取るべき九つの変化について説明)
〇第九 行軍篇
(戦場における行軍の考え方)
〇第十 地形篇
(戦う時の事項を地形と軍隊の状況の二つに分け六つの状況を解説)
〇第十一 九地篇
(地形篇に続き、戦場となる地形と兵の使い方)
〇第十二 火攻篇
(火攻めを中心に解説)
〇第十三 用間篇
(敵の情報を入手するには間諜の用い方)
著者: 孫氏
『孫子』(そんし)は、紀元前500年ごろの中国春秋時代の軍事思想家孫武の作とされる兵法書。武経七書の一つ。古今東西の兵法書のうち最も著名なものの一つである。紀元前5世紀中頃から紀元前4世紀中頃あたりに成立したと推定されている。
『孫子』以前は、戦争の勝敗は天運に左右されるという考え方が強かった。孫武は戦争の記録を分析・研究し、勝敗は運ではなく人為によることを知り、勝利を得るための指針を理論化して、本書で後世に残そうとした。
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